コラム

大江千里が料理本を発売! ニューヨーク発の「大江屋レシピ」46皿がこんなにも極上な訳

2022年11月28日(月)19時00分

11月28日発売の新著『ブルックリンでソロめし!』を手に持つ大江千里 Senri Oe

<コロナとインフレが直撃したニューヨーク・ブルックリンで、自宅でのソロメシを極めた大江千里。毎回が「最後の晩餐」だと思うと、食の意味が変わってくる>

アメリカはポストコロナにインフレが直撃。こんな大変な時代に「食」はまさに基本中の基本と言える。

僕は外食も結構していたのだが、コロナ以後は熟練のサーバーが解雇されてホスピタリティーがガタ落ちのレストランが急増して辟易した。スープを運んできてもスプーンを忘れる。食事どころかまだビールも飲んでいないのに、先にトータルの請求書が目の前に置かれる。個人主義のアメリカだけにやりたい放題だ。

そういう背景も手伝って、自然とブルックリンで家メシする機会が増えた。節約できるし健康にもいいし、何よりおいしいものを食べられたとき、心がほっこりする。

僕の料理は基本、簡単でシンプルなものが多い。既製のレシピは見ない。舌がお子ちゃまなので、カレーやパスタ、オムライス、焼き飯などが頻繁に登場するが、こう見えて一応健康には気を付け、野菜メインに時々プロテインを挟む。

何軒か行きつけのスーパーがあり、親しい店員さんとのやりとりで買うものを決める。物価高騰で愛犬「ぴ」の大好物の日本風キュウリが5本で7ドル、さすがにしばらく買えなかった。

肉も野菜もパックの中に傷みかけが必ず交じっているので、ちゃんと中身を確かめてから買う。卵はだいたい50%の確率で割れている。

オクラはインド人のスーパーでの量り売りがいい。パックで売っているシイタケは7ドルするが、量り売りだと肉厚のものを10個買っても4ドルだ。面白いのは、レジで毎回アフリカ系の若い男の子が「このマッシュルーム、なんて名前だっけ? えーと」。

もう慣れっこになっているので僕が「シイタッケ」と言う。すると「そうそうそう、シイタッケ!」と大声で他のレジへ伝える。あちこちから「シーシー(そうだそうだ、というスペイン語)、シイタッケシイタッケ」と言うガールズの声。毎回これなので、シイタケを買うときはボケて突っ込む覚悟が必要だ。

食は十人十色、満足は千差万別

冬が近づくと肉料理が増える。先日、ゆで卵を入れたターキーミートローフ作りに大成功したので、作り置きした。その数日間は楽しかった。YouTubeで人気の「大家族フォーサイス家」のマミーが「速くたくさん作らないかんけぇ、時短なんよ時短」とタネをこねるのを見て、おいしそうだなとトライしたのだ。

どこかで食べた舌の記憶や、誰かから聞いたうろ覚えの記憶を元にゼロから始めるクッキングなので仕上がりは自分流だが、不思議に味はいつもそれなりにおいしい。「これが最後の晩餐、自分という1人の客の最後の夜を喜ばせるため全身全霊をかけて作る一品」をイメージして作ったものばかりだからかもしれない。

この「最後の晩餐」の記録が本になる。題して『ブルックリンでソロめし!美味しい!カンタン!驚き!の大江屋レシピから46皿のラブ&ピース』(KADOKAWA、11月28日刊)。食は十人十色、満足は千差万別。失敗を繰り返し、首をかしげながらも毎回ハッピーに着地するレシピが並ぶ。食べることは根源的でシンプルで深い。

1人の自分を喜ばせるための大江屋レシピが46皿。書き下ろし食エッセイも含めギュッと詰め込んだ料理本だ。コロナ禍のアメリカでの僕のサバイバル備忘録でもある。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネトフリ合

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も

ビジネス

EU、炭素国境調整措置を強化へ 草案を正式発表

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story