コラム

iPhone不買運動、「日の出」を連想させるポスターの罵倒...中国政府「非公認の愛国」が暴走する理由

2024年03月11日(月)19時40分
HuaweiとAppleのロゴが横並びになった深圳の通り

「中国を愛するならHuaweiを買うべき」「iPhoneを買うなら裏切り者」という空気が蔓延しているとの声も(写真は2018年11月、中国・深圳) StreetVJ-Shutterstock

<中国では「何が愛国か」を判断するのも共産党。官製ナショナリズムをはみ出しての「勝手な愛国」は制止されるのが常だが、これからはそうはいかないかもしれない>


・中国ではHuaweiのシェアがiPhoneを上回ったが、そこには「中国製を購入するべき」という草の根のナショナリズムと同調圧力の影響がうかがわれる。

・こうした草の根のナショナリズムは他にも広がりをみせているが、「何が'愛国'かを決めるのは共産党」という方針のもと、中国政府は過剰な動きを取り締まってきた。

・しかし、若年失業率の高まりなど経済・社会的な不満が高まりやすいなか、'愛国'の暴走は生まれやすくなっており、これは習近平体制にとってのジレンマにもなっている。

iPhoneとHuaweiのシェア逆転

中国では今年最初の6週間に米Apple製iPhoneの売上が昨年度を24%下回り、市場シェアを昨年比で大きく下落させた(19%→15.7%)。それと入れ違いにHuaweiの売上が昨年同時期と比べて64%上昇し、シェアでiPhoneを上回った(9.4%→16.4%)。

中国では一般家計の消費が低迷しており、このシェア変動は消費者が価格の安いスマホに流れた結果と見ることもできるが、それとは別に政治的な背景もうかがえる。

ナショナリズムと同調圧力の蔓延だ。

中国でiPhoneの売上が減少し始めたのは昨年9月からだ。そのきっかけは「公務員のiPhone使用が禁止された」という報道だった。

同じ頃、アルジャズィーラは同僚から「なぜHuawei製を使わないのか」と詰問されたiPhoneユーザーの声を紹介した。その女性は「中国を愛するならHuaweiを買うべき、もしiPhoneを買うなら裏切り者」といった空気が蔓延していると漏らしている。

5Gや半導体など先端技術の開発は先進国と中国の間の争点になっているが、それと同時に中国の大国意識や愛国心のシンボルにもなっている。iPhoneのシェア下落は中国における草の根のナショナリズムと同調圧力を示唆する。

中国はAppleにとって最大の市場の一つである。

日の丸を連想させるロゴの排除

草の根のナショナリズムの矛先は日本にも向かっている。

2022年8月、日本アニメ「サマータイムレンダ」のファンのコスプレイヤーが蘇州の路上で日本の着物を着ていたところ、警察官に「中国人らしくしろ」と怒鳴りつけられた挙句、拘束された。

また、南京にあるショッピングモールで今年1月、初日の出をイメージして赤い丸の描かれた、新年を祝うポスターに中国人ブイロガー(Vlogger、videoとbloggerの合成語)が「ここは東京じゃない! 南京だ! なぜこんなものを掲げるんだ!」と支配人を難詰し、その様子がSNSで拡散された。

赤い丸が日の丸を連想させる、ということらしい。結局、警察官がやってきて問題のポスターは撤去された。

これについて、近所の飲食店の店主はメディア取材に「今まで生きてきたなかで一番バカバカしい」と切り捨てている。

赤い丸や日の出のイメージがダメなら、Huaweiのロゴをはじめ、毛沢東や習近平の肖像画などでよく使われる赤い背景に至るまで全部排除しなければならない、というのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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