コラム

庶民の「反日感情」を煽って儲けた金で、中国の富豪たちは自宅に和室を作る

2021年11月02日(火)17時51分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
反日で親日な中国(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国で日本に対する感情が8年ぶりに悪化した一方で、和食や茶道は「品格ある生活様式」として金持ちたちに人気を博している>

先日、ソニーの中国法人が北京市朝陽区の市場監督管理局に100万元(約1770万円)の罰金を科された。広告を出した新製品発表日が日中戦争の発端である盧溝橋事件の7月7日で、「中国の尊厳と利益を深刻に傷つけた」という理由だった。

大連の「盛唐・小京都」と名付けられた商店街が、開業してわずか1週間で休業状態に追い込まれたのは記憶に新しい。また南京でガイドらしき男性がミニサイズのこいのぼりを持ちながら歩いていたところ、「あんたは中国人だろ? 日本のこいのぼりを持つなんてやめなさい」と、通り掛かった人に非難された。中国の街頭で日本の着物を着るのもご法度。アモイの日本料理屋の店員が、着物姿で新型コロナウイルスのPCR検査を受けに行くと、「服装を変えろ」と、検査を拒否された。

今年8~9月に実施された日中共同世論調査で、中国人の日本に対する印象が8年ぶりに悪化に転じ、66.1%が「良くない」と答えた。中国に対して「良くない」と答えた日本人は去年とほぼ同じ90.9%。日中両国は今や「嫌いな者同士」だ。

しかし中国が嫌いだからギョーザも嫌い、という日本人がいないのと同じように「日本製品ボイコット」と叫ぶ中国人も、おいしい日本料理はボイコットしない。むしろ、今の中国人富裕層は芸術品のように美しい日本料理が品格ある生活スタイルを象徴するように感じ、そのために金を惜しまない。

日本の茶道、華道、枯山水も「品格ある生活スタイル」として敬慕されている。自宅の一室を畳の和室に改装して、家族や親しい友達と茶道を楽しむのが富裕層たちのひそかな流行だ。

もっと金持ち、例えばファーウェイ創業者兼CEOの任正非(レン・チョンフェイ)は日本から材料を持ち込み、深圳の本社内に全長100メートルの京都の街並みを再現した。もちろん、ファーウェイの「小京都」は大連のように休業にならない。普通の庶民には反日の自由が、特権階級には親日の自由がある、というわけだ。

任正非ら金持ちの政治立場は当然、「反日」だ。ナショナリズム全盛の中国社会で、「排外愛国」は最も儲けられるビジネスだから。「反日」で儲けた金を「親日」的生活に費やす――「矛盾の統一」という中国の伝統的な知恵である。

ポイント

日中共同世論調査
日本の言論NPOと中国国際出版集団が共同で実施。調査は今年で17回目。日本人の中国への印象悪化は尖閣問題が、中国人の悪化は日本人の歴史認識が主因とされている。

矛盾の統一
陰と陽などいずれか一方だけでは成立せず、対になる2つの要素が1つになって初めて存在が成立すると考える思想。2つを相互連関的に捉え、両者の調和と安定を重んずる。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story