コラム

岸田政権は「海外に資金をばらまいている」のか?

2023年08月17日(木)18時10分
岸田首相とゼレンスキー大統領

G7サミットで原爆死没者慰霊碑を訪れる岸田首相(右)とウクライナのゼレンスキー大統領(5月21日、広島) Eugene Hoshiko/Pool via REUTERS

<物価上昇が国民生活を圧迫するなど国内に諸問題を抱える今、外国を支援する余裕があるのかという批判があるが、このタイミングで途上国・新興国にODAを増やすことにはそれなりの必然性がある>


・SNSなどでは岸田政権への批判の一環として「海外で資金をばらまいている」といわれる。

・データを確認すると、実際に2021年頃から海外向け援助が急増している。

・贈与額は2022年に2000億円だったが、今年はそれをさらに上回ると見込まれる。

海外への資金提供は実際に増えている

このところSNSなどでは、岸田政権が「海外で資金をばらまいている」という批判が目立つ。

物価上昇、「異次元の少子化対策」に代表される疑問の余地の大きい政策、首相の家族を含む政府関係者の不祥事などへの不満が、これに拍車をかけているかもしれない。

しかし、これらの問題を一旦おいたとして、実際に海外に提供される資金は増えているのだろうか。

結論的にいえば、増えている。しかも、今後も増え続ける可能性が大きい。

下のグラフは2019年から今年7月までに日本外務省が正式に合意・調印したODA(政府開発援助)の拠出額を示している。

海外向けの資金にはいくつものバリエーションがあるが、ここではその柱である外務省のODAに絞る。さらに、貸すタイプの「貸与」を除外し、あげるタイプの「贈与」に限っている。

mutsuji230817_1.jpg

この間、近似曲線の動きからも分かるように、ODA贈与額は増加傾向を示している。

特に2023年3月にとび抜けて高い数値を記録しているが、合計1135億円のうち530億円はウクライナ向けだった。

ウクライナ以外にも、2022年度に食糧価格高騰などによってODA要請が増加したことと、公的機関特有の年度末の予算消化が結びついた結果が、この急増だったといえる。

しかし、これでは動向がやや分かりにくいので、年単位で表してみよう。それがこれだ。

mutsuji230817_2.jpg

「地球儀外交」や「積極的平和主義」を掲げた安倍政権と比べても、岸田政権にはODAの増加をうかがえる。日本のODAは貸与が中心だが、それでも贈与の増加によってその比率が徐々に高くなっていることもわかる。

2023年のデータは7月いっぱいまでのものだが、このペースでいけば年末までに昨年を上回ることはほぼ確実だ。

なぜODAを増やすのか

物価上昇で国民生活が圧迫されているだけでなく、国民の5人に1人が後期高齢者になる「2025年問題」を目前にしたこの時期に、外国を支援する余裕があるのか、ばらまきすぎではないか、といった批判があることは理解できなくない。

ただし、あえていえば、ODA増額にはそれなりの必然性がある。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユナイテッドヘルス、サイバー攻撃で米国人情報の3分

ワールド

原油先物4日ぶり反発、米の戦略備蓄補充観測で

ビジネス

英バークレイズ、イスラエルに武器供給する企業への投

ワールド

「外国人嫌悪」が日中印の成長阻害とバイデン氏、移民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story