コラム

ワグネルに代わってカディロフツィがロシアの主力に? チェチェン人「TikTok兵」の危険度

2023年06月05日(月)15時05分

'TikTok兵'の仕事とは

しかし、別の見方もある。

最前線から離れた位置にいることが多かったのは、宣伝を主な仕事にしていたからというのだ。先述のクヴァハーゼ博士も、最前線から20kmも後方でできることは「動画を撮ることだけ」と指摘している。

ウクライナ戦争ではウクライナ、ロシア双方の兵士が動画を発信し、'TikTok war'という言葉も生まれた。なかには砲声の響く雪中でピカチュウダンスを踊る、若いウクライナ兵の日常を切り取った動画もある。

カディロフツィもこれまでSNSに兵士が躍動する動画を数多くあげてきたが、そこに「戦争をしているふりだけのフェイク」が目立つという指摘は多い。

例えば侵攻開始直後の昨年3月14日、カディロフはホストメリの戦場にいる自分の動画をTelegramに投稿したが、後日ウクライナメディアがロシア国営メディアと偽ってカディロフのIPアドレスを入手し、当日の位置情報を確認した結果として、カディロフはホストメリではなくチェチェンの中心都市グロズヌイにいたと発表した。

こうしたこともあって、カディロフツィはウクライナメディアでしばしば'TikTok兵' と揶揄される。

残虐行為の加速か

ロシアの退役軍人で、その後ワグネル兵としてシリアなどで活動した経験を書籍にまとめて世界的に関心を集めたマラー・ガビドゥリン氏も、アルジャズィーラの取材に対して、カディロフツィの動画のほとんどが実戦ではないと断定している。

さらにガビドゥリン氏は「チェチェン人には優秀な兵士も多い」と断ったうえで「しかしカディロフの周辺にいるのはゴマスリが上手な連中ばかり」とも指摘している。

だとすると、カディロフツィが戦闘任務を担っても、戦術的には大きな意味がないかもしれない。

しかし、それでもロシア側にとっては宣伝や心理戦という観点からの意味がある。

カナダ人ジャーナリスト、ジャスティン・リン氏は、カディロフツィがSNSで宣伝を強化するほど、「チェチェンと同じように、ウクライナでもカディロフツィが都市の破壊、レイプ、略奪、殺戮をエスカレートさせる」というイメージをロシア国内だけでなくウクライナでも拡散させると指摘する。

それはロシアのプーチン支持者には満足感を、ウクライナの市民には恐怖を、それぞれ拡散させるものだ。

そのイメージに説得力を持たせるため、ウクライナ軍に対する攻撃より民間人を標的にした残虐行為がこれまで以上に増える懸念もある。その意味で、カディロフツィがイメージ優先の'TikTok兵'だったとしても、戦火が収まることは期待できないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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