コラム

サッカーブラジル代表が黒いユニフォームを着た意味──グローバルサウスの抗議

2023年06月23日(金)09時00分

さらに一連の出来事は映像を通じて世界中に伝わり、スペイン内外で批判が噴出した。

これを受けてスペインサッカー連盟も無視できなくなった。その結果、チームとしてのバレンシアには1万8000ユーロの罰金、マエスタラ・スタジアムでの3試合閉鎖、選手・スタッフ全員の差別対策研修受講などが命じられた。

問題の試合でのヴィニシウス・ジュニオールの退場処分は撤回され、レッドカードを出したレフェリーは解雇された。

スペインサッカー連盟としては「これで終わり」にしたかったのかもしれない。

アフリカ系選手がとりわけ差別されやすいのは、欧州サッカーでいつものことといえばいつものことだ。

しかし、ヴィニシウス・ジュニオールほどのスター選手にいわばスタジアムぐるみで差別的ショーを行った代償としては処分がいかにも軽いうえ、スペインサッカー連盟の議論で当初の「5試合閉鎖」案が3試合に、「罰金4万5000ユーロ」案が1万8000ユーロに削減されたことは、かえって批判を高めた。

「なぜ欧州は本気で取り組まない」

とりわけヴィニシウス・ジュニオールが代表チームの一員であるブラジルでは批判が強かった。

そのため、ブラジルサッカー連盟は抗議の意思を示すため、スペインで開催される親善試合での黒いユニフォーム着用を決定したのだ(なぜ黒か。抗議活動では黒い衣類や持ち物が用いられることが多いが、この理由を色彩心理学者でデザイナーのジョージア・ランボルドは他に染まらない黒に「独立、固い決意」などのイメージが持たれやすいからと説明する)。

過剰反応、という見方もあるかもしれない。

しかし、ヴィニシウス・ジュニオールに対する嫌がらせはこれが初めてではなかった。問題の試合のあった二日後の5月23日、スペイン警察はヴィニシウス・ジュニオールの人形を「吊るした」嫌疑で4人を逮捕した。

加害者が「冗談だった」と言い張る、日本の学校でのいじめと同じ構図なのかもしれないが、その対象にとっては脅迫に等しい。

ブラジル政府もサッカー連盟の決定を支持し、スペイン当局とFIFAに改善を公式に申し入れた。ルーラ大統領は「自分の人生に勝利し、世界最高の一人にまでなった若者が、行く先々のスタジアムで侮辱されるのは不公正だ」と述べた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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