コラム

「西側に取られるなら不毛の地にした方がマシ」ロシアの核使用を警戒すべき3つの理由

2022年03月24日(木)21時45分
プーチン

クリミア併合8周年式典で演説するプーチン大統領(2022年3月18日) RIA Novosti Host Photo Agency/Vladimir Astapkovich via REUTERS

<「ただの脅し」とみなされているとロシア政府が受け取れば、むしろ本当に核使用に踏み切るリスクは高まる>


・ロシアがウクライナで核兵器を使用する可能性は高くないが、その恐れは着実に増している。

・その理由には長期化を嫌がっていること、ウクライナを西側に取られるより不毛の地にする方がマシであること、そして核抑止が効かないことがある。

・ロシアの「本気度」を疑いすぎることは、かえって神経過敏になっているプーチン政権を刺激しかねない。

ロシアはウクライナで本当に核兵器を使用するか。「ただの脅し」という見方もできるが、プーチンが核使用に踏み切る恐れは払拭できない。そこには三つの理由がある。

核使用の現実味

ロシア政府スポークスマンは3月22日、米CNNのインタビューに対して「我々は国家安全保障に関する考え方を以前から公表しており...実際の脅威があれば、その考え方に沿って核兵器を使用することもあり得る」と述べた。

これはウクライナを念頭に置いた発言だ。

プーチン大統領はウクライナ侵攻開始直後の2月28日、国防相に核抑止の警戒レベルを引き上げるよう指示した。これはアメリカが介入するなら核戦争も辞さない、というメッセージとみられる。

その後、国連のグテーレス事務総長が3月14日に懸念を表明するなど、ロシアによる核使用への警戒はすでに高まっていたが、今回のスポークスマンの発言は危機感を嫌が上にも高めるものだ。

ハンブルグ大学のウルリッヒ・クーン教授は「可能性はまだ低いが、高まってもいる」と述べ、人の多くない地域を狙って、ロシアが小型の核弾頭を使用することがあり得ると警鐘を鳴らしている。

長期戦を避けたいロシア

「ただの脅し」「心配しすぎ」という見方もあり得るが、少なくともシリア内戦など他の戦争と比べれば、ウクライナ侵攻ではロシアが核兵器を使用する恐れが拭えない。そこには大きく三つの理由がある。

第一に、ロシア政府は短期間のうちに決着をつけたいからだ。

すでに日本を含む先進国が発動している経済制裁は、長期化すればするほど効果が大きくなるとみられる。

また、ロシアの強気を支える一つの条件は歴史的な資源価格の高騰だが、先進各国の働きかけもあってサウジアラビアやUAE、カタールなどアラブ諸国は増産体制に入っている。そのため、天井知らずの価格高騰がいつまで続くかは不透明だ。

さらに、長期化するほどロシア国内の不満や批判も大きくなりやすい。

ところが、ウクライナ側の抵抗もあり、ロシア軍の進撃は遅れ気味といわれる。つまり、マリウポリを含めて個別の戦闘ではロシア軍有利の戦場が多いとしても、全体的な風向きは短期決戦を目指すロシアにとって不利になりつつあるとみてよい。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英生保ストレステスト、全社が最低資本要件クリア

ビジネス

インド輸出業者救済策、ルピー相場を圧迫する可能性=

ワールド

ウクライナ東部の都市にミサイル攻撃、3人死亡・10

ワールド

長期金利、様々な要因を背景に市場において決まるもの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story