コラム

プーチンに「熱狂」し、ウクライナ侵攻を「手本」と見なす中国人の心理

2022年03月15日(火)17時34分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中露関係(風刺画)

©2022 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<中国ネット空間にはロシアを応援したり、プーチンを熱烈に支持する投稿が溢れる。中国政府にとっても、ロシア批判を許すことはできない状況だ>

「プーチン支持者が最も多い国はロシアではなく中国だ」

開玩笑(冗談)ではない。国連総会のウクライナ侵攻非難決議で中国政府は棄権したが、中国ネットでロシアやプーチン大統領を応援する投稿が大量に発生した。

経済制裁下のロシアを支援するため、中国の電子商取引(EC)サイトではロシア製品の爆買いが広がった。北京市内の在中国カナダ大使館が「われわれはウクライナを支持する」と中国語で記した看板を掲げると、その上に「FUCK NATO」と英語で落書きされた。

ロシアの電撃戦が停滞しているのはウクライナの必死の抵抗ではなく、「プーチンが手ぬるいから」だという投稿や、「この70歳(実際には69歳)の男を心がうずくほど愛している」という、プーチン宛ての中国語の愛の告白もあった。

強権崇拝と、特別な親近感

秦の始皇帝から始まりジンギスカン、毛沢東、ウサマ・ビンラディン、そしてプーチン。今の中国には彼らの熱狂的信者がいる。強権崇拝の伝統がロシア支持の理由の1つだろう。

もう1つは、かつての中ソ関係だ。1950年代生まれの中国人は青春時代にロシア語を勉強させられた。ロシア文学はこの世代の人たちにとって唯一許された異国文化で、彼らは今でもロシアに特別な親近感を持っている。

1953年生まれの習近平(シー・チンピン)国家主席もこの世代に属する。だから今の中国政府はロシア寄りなのだと考えられる。

もちろん、イデオロギー教育の成功の結果でもある。幼い頃から「台湾は中国の一部」という教育を受ける人々にとって、ロシアのウクライナ侵攻は中国による台湾武力統一の手本と見なせる。今日のウクライナは明日の台湾。大半の中国人は「政府の立場はわが立場」だから、ロシアを支持する。

ロシアは過去、中国領土を奪い取ったこともある。歴史に詳しい中国人がその侵略の過去をネットに投稿しても、すぐに削除される。ウクライナ侵攻に対して、中国の学者が国際社会と同じく非難の声を上げても、ブロックあるいは告発される。

中国政府がロシアやプーチン批判を決して許さないのは、もちろん友情のためではない。「永遠の友人はいない、永遠の国益しかない」と信じるからだ。

ポイント

中ソ関係
同じ社会主義・共産主義国として友好関係にあったが、1956年のフルシチョフによるスターリン批判を契機に、中ソ両国が「修正主義」「極左冒険主義」と互いを罵倒する論戦に発展した。

「永遠の友人はいない、永遠の国益しかない」
19世紀の英首相パーマストンの言葉。全文は「英国は永遠の友人も持たないし、永遠の敵も持たない。英国が持つのは永遠の国益である」。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story