コラム

ベラルーシがロシアに協力的な5つの理由──「強いソ連」に憧れる崖っぷちの独裁者

2022年03月03日(木)20時05分

「強いソ連」に対するルカシェンコの憧憬はやや度が過ぎるほどだ。1999年には両国の政治、経済、安全保障などを段階的に統合するロシア・ベラルーシ連合国家創設条約が結ばれ、いわばロシアとの一体化さえ視野に入れてきた。

もっとも、ナショナリストでもあるルカシェンコは、国力の差を全く無視して「対等の合併」を強調してきたため、当のロシアから冷たい目でみられることもしばしばだった。

(3)ロシアに睨まれたら終わり

ただし、ロシア寄りが鮮明でも、ロシアとの関係が常に順調だったわけではない。むしろ、ルカシェンコ率いるベラルーシはしばしばロシアの逆鱗に触れてきた。

例えば2007年、ロシアはベラルーシ向け天然ガス供給を一時停止した。ベラルーシはロシア産天然ガスを割安で輸入していたが、これを精製した後に転売していたことが発覚したことへの懲罰だった。

さらに、2009年にロシアはベラルーシ産品の輸入を停止した。現在でもベラルーシの輸出の約半分はロシア向けであり、当時この取引停止が大きなショックになったことは間違いない。

この背景には、今回と同じくロシアの軍事行動があった。

その前年ロシアは、旧ソ連の一角で、欧米に接近していたジョージアに侵攻した。このときロシアは、ジョージア政府と敵対していた同国北部のアブハジア地方と南オセチア地方の分離主義者を支援し、その国家としての独立を承認した。

いわば力づくでジョージアからこれらの地方を切り取ったロシアに対して、ベラルーシはアブハジアや南オセチアを国家として承認しなかった。このことがベラルーシ産品の輸入停止を招いたのである。

ベラルーシはロシアと距離を縮めたが故に、ロシアに睨まれないようにしなければならない立場にもある。そのため、今回の侵攻に先立ってロシアがウクライナ東部ドンバス地方の分離主義者を支援し、その「独立」を承認したときもベラルーシはこれを承認しなかった。

もっとも、それだけではジョージアの時と同じになりかねないので、ベラルーシ領内からロシア軍が進撃することを認めた。これはいわば帳尻を合わせた格好といえる。

(4)寝返ることも難しい

「だったら欧米に寝返ればいいのに」と思うかもしれないが、ベラルーシにはそれも難しい。

ロシアとのすきま風が目立つにつれ、2000年代末ころからルカシェンコは欧米との関係改善に着手してきた。旧ソ連圏6カ国との経済交流を目指すEUの東方パートナーシップ協定に参加したことは、その現れである。

しかし、「独裁者」ルカシェンコに対してはEU内に強い拒絶反応がある。ポーランドとリトアニアにはとりわけそれが鮮明だが、両国はベラルーシに地理的に近いだけでなく、歴史的な関係が深い。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア高官、ルーブル高が及ぼす影響や課題を警告

ワールド

ゼレンスキー氏、和平協議「幾分楽観視」 容易な決断

ワールド

プーチン大統領、経済の一部セクター減産に不満 均衡

ワールド

プーチン氏、米特使と和平案巡り会談 欧州に「戦う準
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story