コラム

ベラルーシがロシアに協力的な5つの理由──「強いソ連」に憧れる崖っぷちの独裁者

2022年03月03日(木)20時05分

ベラルーシは18世紀にロシア帝国に組み込まれ、その後ソ連に継承されたが、それ以前の16-17世紀、この土地は当時ヨーロッパで最も大きな国の一つだったポーランド・リトアニア同君連合によって支配され、ポーランド語を強制された歴史をもつ(この点ではウクライナも同じ)。

関係が深いだけに、ポーランドやリトアニアでは「敵方」に与するルカシェンコへの反感が特に強いわけだが、ルカシェンコにとっても両国は危険な存在といえる。

「独裁者」ルカシェンコに対しては国内でも批判が高まっており、2006年には大統領選挙での不正を批判するデモが拡大して「デニム革命」と呼ばれた(参加者の多くがデニムを着用していたことに由来する)。この際、当局の弾圧を逃れたリーダーの多くはポーランドやリトアニアに渡り、この地で政治活動を続けてきた。

さらに、2020年にも抗議デモが大規模化(後述)し、これに対してEUは2021年の東方パートナーシップ会議でベラルーシの参加資格を停止したが、そこにはポーランドとリトアニアの働きかけが大きかった。

両国を拠点とする拒絶反応は結果的に、ルカシェンコがロシア頼みにならざるを得ない状況を再生産してきたといえる。

(5)崖っぷちの「独裁者」

最後に、国内の混乱によってルカシェンコは、これまで以上にロシアの顔色をうかがわなければならない状況にある。

2020年8月、ルカシェンコは大統領選挙で勝利して6選を決めた。しかし、そもそもルカシェンコが多選を禁じた憲法の改正を重ねて立候補すること自体に批判があり、そのうえ投開票の作業に不正があったと報じられた。そこにコロナ禍に由来する不満が爆発して、抗議デモが全土に拡大したのである。

その結果、数千人が逮捕され、数多くの人々が警察による拷問や暴行の被害を受けたといわれる。さらに、混乱によって多くの難民が押し寄せたポーランドでは国境封鎖を求める声も高まっている。その結果、欧米諸国はルカシェンコを「正統な大統領と認めない」ことを決定したのだ。

これがルカシェンコへの圧力になったことは疑いないが、その立場をさらに不安定にしたのが、反ルカシェンコ勢力へのロシアの支援だった。

反ルカシェンコの抗議には、自由で開かれた社会を目指す勢力だけでなく、それとは逆に排他的で人種差別的なスローガンを掲げる極右も混じっており、政治的混乱を念頭に「ヒトラーのような指導者が今こそ必要」という主張さえ飛び出している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日鉄、純損益を600億円の赤字に下方修正 米市場不

ビジネス

トヨタ、通期業績予想を上方修正 純利益は市場予想下

ワールド

EU、排出量削減目標を一部弱める COP30に向け

ワールド

民主3戦全勝、NY市長に34歳左派 トランプ氏2期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story