コラム

ウクライナ侵攻で膨らむトランプ復活の可能性

2022年03月01日(火)20時45分
トランプとプーチン

G20サミットで握手する当時のトランプ大統領とプーチン大統領(2017年7月7日) Carlos Barria-REUTERS


・ウクライナ侵攻で手も足も出ないことで、アメリカではバイデン政権の支持率低下に拍車がかかる公算が高い。

・もともとプーチンにとってはバイデンよりトランプの方が扱いやすかった。

・ウクライナ侵攻でバイデンの求心力が低下すれば、2024年アメリカ大統領選挙でトランプが復活するきっかけになり得る。

ロシアのウクライナ侵攻は、アメリカでトランプ復活の援護射撃になるかもしれない。

プーチンを称賛したトランプ

ロシア政府とウクライナ政府の協議が28日、始まった。その行方がどうなるにせよ、ウクライナ侵攻は今後の世界に大きな影響を与えるとみられる。その一つがトランプ復活だ。

ウクライナ侵攻とトランプに何の関係があるか。まず、ウクライナ侵攻に関するトランプの態度をみておこう。

ウクライナ侵攻が始まった2月24日、トランプはTVで「不正操作された選挙の結果だ」と述べた。自分が大統領だったらこんなことはなかった、といいたかったのだろう。そのうえでトランプはプーチンを「すごく頭がいい(pretty smart)」と持ち上げた。

プーチンを高く評価するトランプだが、トランプ政権時代にウクライナ侵攻がなかったことを考え合わせれば、「あのプーチンを抑えていた自分はもっとすごかった」という話になりやすい。

トランプに救われたプーチン

ただし、例によってトランプのコメントには留保も必要だ。

トランプ政権時代にプーチンが動かなかったのは「アメリカを恐れたから」ではなく「アメリカを恐れる必要がなかったから」といった方が正確だろう。プーチンにとってトランプはむしろ安心できる存在だったからだ。

例えば、NATO加盟国はトランプ政権時代、ギクシャクし続けた。

「アメリカ第一」を掲げるトランプ政権は相手を構わず関税引き上げの対象にしただけでなく、「同盟国がアメリカにタダ乗りしている」と強調して負担増を求め、ヨーロッパ駐留米軍1万2000人を撤退させるとも宣言した(バイデン政権になって撤退は中止)。

混乱する西側はロシアの目に「恐れるに足らず」と映ったことだろう。これに拍車をかけたのは、トランプ政権がウクライナ支援に熱心でなかったことだ。

トランプ政権は2018年、対戦車ミサイル、ジャベリンを含む3000万ドル相当の兵器売却をウクライナに約束したが、同じ年のうちにこれを凍結した。これは国内政治が理由だったとみられる。

この当時すでに、2020年大統領選挙でバイデンがトランプの有力な対抗馬になると見込まれていた。ライバルを蹴落とすため、トランプはバイデンがオバマ政権の副大統領だった時代にウクライナで行った汚職に関する捜査をウクライナ当局に求め、これが断られたため武器供与を凍結したと、後に告発されることになった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

麻生自民副総裁、トランプ氏とNYで会談 米大統領選

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ビジネス

中国当局、地方政府オフショア債への投資を調査=関係

ビジネス

TikTok米事業継続望む、新オーナーの下で=有力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story