コラム

コロナワクチン「特許放棄」の現実味──突き上げる途上国、沈黙する先進国

2021年11月02日(火)19時10分
G20 各国首脳

G20首脳会合に出席するためローマに集まった各国首脳(10月30日) Erin Schaff/Pool via REUTERS


・G20首脳会合で企業課税の引き上げが合意されたことは、多くの国で利害が一致した結果である。

・これに対して、利害が一致せず、総論にとどまったテーマもあり、コロナワクチンの普及はその一つである。

・バイデン政権はワクチン普及を促すため「特許放棄」をすでに打ち出しているが、実現への道は遠い。

衆議院選挙に日本の関心が集中している間も、世界は動き続けている。

ワクチン接種の格差

10月30日にイタリアのローマでG20首脳会合が開催され、企業に対する税率を最低15%に引き上げることが合意された。これは従来、各国が法人税を引き下げる「最底辺への競争」に突っ込んでいたことから大きく転換するものだ。

冷戦終結後、世界がグローバル化し、各国間の競争が激化するなかで「市場の論理」は「国家の論理」を超越することが増えた。「企業の競争力を高める」が錦の御旗あるいは水戸黄門のインロウのようにあらゆる反対を押し切る力となり、課税率の引き下げや雇用条件の緩和など、企業にとって有利な改革がどの国でも押し進められた。

しかし、法人税の引き下げ競争は課税逃れのための企業の海外移転だけでなく、税収の減少、一般住民の税負担をもたらしやすい。今回、その参加国のGDPの合計が世界の約8割を占めるG20の場で、企業への課税を強化する方針が合意されたことは、行き過ぎたグローバル化の弊害にブレーキをかけることに、多くの国が賛同できた結果といえる。

とはいえ、G20首脳会議で合意が得られなかったテーマもある。その代表ともいえるのが、豊かな国とそうでない国の間にあるコロナワクチン接種の格差の是正だ。

総論の合意にとどまる主要国

G20首脳会合ホスト国であるイタリアのドラギ首相は、先進国では人口の70%が1回以上コロナワクチンを接種しているのに対して、貧困国ではその割合が3%に過ぎないと指摘し、この格差が「道徳的に受け入れがたいもの」と力説した。

これに対して、各国は「来年半ばまでに世界人口70%にワクチンを接種」といった総論では賛成できても、それ以上の具体的な方針で一致することは難しい。

WHO(世界保健機関)にはコロナワクチンを共同購入して貧困国に配分する仕組み(COVAX)があるが、豊かな国の善意だのみであるため、十分に機能しているとはいえない。例えば、アフリカには今年8月までに6億4000万本のワクチンが供給されることになっていたが、実際に届いたのは1億6300万本にとどまった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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