最新記事

インド

インド首都圏、抗体保有率97%を突破 しかし「集団免疫とはいえない」と政府筋

2021年11月2日(火)16時55分
青葉やまと

97〜98%に抗体が認められたが...... REUTERS/Amit Dave

<ワクチンに加え、市中感染が押し上げたか。しかし現地は、集団免疫の判断に慎重姿勢を示す>

インド当局は10月28日、デリー首都圏における新型コロナウイルスの抗体保有率を発表した。成人の97%以上が抗体を保有するという、極めて高い水準となっている。デリー首都圏のサティエンドラ・ジャイン保健相が記者会見の場で明かした。

この数字は9月24日からデリーで行われた、新型コロナウイルスの大規模な血清疫学調査の結果を集計したものだ。現地では定期的に検査が実施されており、今回で6回目となる。合計2万8000点の血液サンプルが採取され、これまでで最大の規模となった。

血清抗体検査の結果、インドの成人にあたる18歳以上の市民では、97〜98%に抗体が認められた。18歳未満では88%であった。280ある行政区別の割合では、もっとも数字の低い区でも85%以上となっている。男女別では、女性の方が男性よりも抗体保有率が高い傾向が確認された。

ワクチン接種の有無でみると、接種済み集団の抗体保有率は97%、未接種集団では90%となった。ある政府関係者は、抗体保有率の高さがワクチンの効果によるものかについては断言できないと述べている。市中感染などにより、ワクチン以外のルートで抗体を獲得した市民が多く存在する可能性がある。

インドでは4月から5月にかけて深刻な第2波に襲われたが、今回の調査は第2波後の初の調査となる。タイムズ・オブ・インディア紙によると、1月に行われた前回調査の段階ですでに約56%が抗体を保有していた。

集団免疫の判断、現地は慎重姿勢

今回の発表を受け日本国内では、デリーが集団免疫を獲得した可能性に触れる報道が出ている。集団免疫とは、人口の一定割合がウイルスに対する免疫を持つことにより、流行が起こりづらくなる状態を指す。結果、抗体を持たない人々も、間接的にウイルスの脅威から保護されることになる。

5月のインドでは、1日あたり最大40万人超の新規感染が報告されていた。その後急減に転じ、デリーに限ると8月以降、日ごとの新規感染者数が100人以下と低い水準を保っている。このことも、集団免疫が達成されたのではないかとの見方を後押しした。

一方で、現地メディアの受け止め方はより冷静だ。ヒンドゥスタン・タイムズ紙は「血清陽性率の上昇にかかわらず、デリーでの集団免疫は達成されていない」との見方を報じた。また、政府関係者はインドPTI通信に対して「このような高い水準の血清陽性率にもかかわらず、デリーが集団免疫を獲得したと言うことはできない」とコメントしている。複数の現地有力紙がこれを報じた。

インディペンデント紙も、集団免疫獲得との判断に慎重な姿勢だ。同紙は専門家の予測として、デリーが今後すぐに壊滅的な被害に見舞われることはないだろうと述べつつ、今後出現する変異株によってはこの限りではないとして警戒を促している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

FRB議長人事、大統領には良い選択肢が複数ある=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中