井戸水に頼る人々や売春婦──外出制限を守れない貧困層がアフリカで新型コロナを拡散する

ジンバブエの首都ハラレの医療従事者(2020年3月5日) Philimon Bulawayo-REUTERS
・医療が貧弱なアフリカでも新型コロナは蔓延し始めており、国民に自宅待機を求める政府も出てきている
・しかし、貧困層ほど外出しない生活や他人と接触しない生活が難しく、自宅待機は一種の特権になっている
・もともと生きるのに必死の人々にとってコロナは二次的な問題に過ぎず、それは結果的にコロナ感染を拡大させかねない
アフリカでも新型コロナ感染による死者が出ているが、もともと機能しない政府に頼れず、さらに生活の糧を得るために外出しなければならない貧困層にとって、外出規制など無関係だ。そのなかには、生活のための売春婦(セックスワーカー)や、水を手に入れるため何時間も井戸に並ぶ高齢者もいる。
「セックスワーカーに近づくな」
南部アフリカのジンバブエでは3月19日、情報省副大臣が新型コロナ対策として「セックスワーカーに近づかないこと」を命じる通達を出した。
セックスワーカーは不特定多数と「濃厚接触」を日常的に繰り返す職業の最たるものだろう。アフリカは世界でもHIVの蔓延が目立つ大陸で、ジンバブエでも15~49歳の感染率は12.7%にのぼるが、売春はその主たる感染経路の一つといわれる(HIVは新型コロナより濃密な接触で感染する)。
その意味でジンバブエ政府は「効率よく感染を抑えられる」というかもしれない。しかし、この通達に対して、Twitterでは「なぜ公共の場での人の移動や集会を規制しないでおいて、セックスワーカーなんだ」といった批判が噴出した。
そのうえ、この命令が効果をあげるとは想定しにくい。
ジンバブエと異なり、外出の自粛などがすでに要請されてきた隣国ザンビアでは、セックスワーカーから「自宅待機なんてしたら生きていけない」「そんなことしたら家族を養えない」という声が出ており、ローカルメディアによると多くのセックスワーカーが街角に立ち続けているという(ということは、恐らく客も政府の要請を無視しているのだろう)。こうした状況は今後のジンバブエでも想定される。
もともとジンバブエでは、他のアフリカ諸国と同じように、貧困を背景に未成年を含む売春が多い。ローカルメディアはトラックドライバーを主な客にする15歳の少女の「うちに食べるものは何もない」「1回5米ドル、'保護なし'なら10ドル」という声を紹介している。
「パンより安い」ともいわれる稼ぎしか得られないのだとすれば、それさえ得られなくなる自宅待機が彼女たちにとって、全く不可能な選択であることは確かだ。
無策を覆い隠すジンバブエ政府
こうした実現の見込みの乏しい命令は、ジンバブエ政府の無策を象徴する。
この筆者のコラム
極右がいまさら「ユダヤ人差別反対」を叫ぶ理由──ヘイトを隠した反ヘイト 2023.11.21
駐留米軍への攻撃が急増...ウクライナとガザから緊張が飛び火、シリアで高まる脅威とは? 2023.11.14
ガザ危機で日本にできることは何か──「独自の立場の日本は橋渡しできる」の3つの錯誤 2023.11.09
イスラエル閣僚「ガザに原爆投下」を示唆──強硬発言の裏にある「入植者の孤立感」 2023.11.07
世界展開する中国の「警備会社」はガードマンか、傭兵か──各国の懸念材料とは 2023.10.27
ワグネルはアフリカからウクライナへ向かうか──「再編」が本格化 2023.10.10
史上初の米下院議長解任は「同担拒否」の結果...解任劇に見るトランプ支持者の近親憎悪 2023.10.05