コラム

トランプのCIA批判派封じは、陰謀論のQAnonが待つ「一大決戦(ストーム)」の始まりか?

2018年08月21日(火)15時00分

QAnonのロゴが付いたTシャツを着たトランプ支持者(8月2日、ペンシルバニア州で行われたトランプ集会で) Leah Millis-REUTERS

<トランプ批判の急先鋒だったブレナン元 CIA長官から権限を剥奪した露骨な批判封じは、トランプを救世主と崇める陰謀論集団QAnonを勢い付けている。この両者が手を結べば、荒唐無稽な陰謀論も現実になりかねない>

トランプ大統領による批判封じは、一部からの固い支持を確保する手段になりつつある。8月15日、ホワイトハウスはジョン・ブレナン中央情報局(CIA)元長官が機密情報にアクセスする権限を剥奪。反トランプの急先鋒ブレナン氏の排除は「異論を認めない」政権の体質を浮き彫りにするが、トランプ氏の熱心な支持者、とりわけ「腐ったエリート」にアメリカが支配されていると捉える陰謀論者の集団「QAnon(Qアノン)」にはアメリカ再生のための一歩として歓迎される。

<関連記事>トランプ政権を支える陰謀論「QAnon」とは何か

政権批判への報復

まず、機密情報にアクセスする権限の剥奪がもつ意味についてみていこう。

アメリカでは情報機関や司法機関の責任者は後任からの相談に応じられるよう、退任後も機密情報にアクセスする権限を認められてきた。トランプ大統領はオバマ政権のもとでCIA長官を務めたブレナン氏に「不安定な行為や行動がみられる」と説明し、アクセス権限剥奪の正当性を強調した。

しかし、アメリカの多くのメディアはこれを「報復」と捉えている。

ブレナン氏は昨年、いわゆるロシアゲート疑惑の捜査に「十分根拠がある」と発言。さらに、7月16日のプーチン大統領との会談でトランプ大統領がCIAの見解と正反対の「2016年選挙にロシア政府の関与はなかった」というプーチン氏の言い分を容認したことを「国家反逆罪にあたる」と糾弾した。

ロシア疑惑の追及を「魔女狩り」と非難してきたトランプ氏にとって、ブレナン氏が目障りだったことは間違いない。

そのうえ、トランプ大統領は機密情報アクセス権限の剥奪を、ブレナン氏以外にも適用する可能性を示唆している。そのなかには、トランプ氏を非難して解雇され、今年4月に発行された回顧録で大統領をマフィアのボスに例えたジェイムズ・コーミー連邦捜査局(FBI)前長官、メキシコ国境を越えてきた不法移民の親子を引き離す措置をナチスの強制収容所になぞらえて批判したマイケル・ヘイデン国家安全保障局(NSA)前長官などが含まれる。

反対派を封じる動きに対して、ブレナン氏はツイッターで「言論の自由を抑圧し、批判者を罰しようとする」なかでアクセス権限の剥奪が行われたと批判し、「情報機関関係者だけでなくアメリカ人全体にとって、意見を表明することに深刻な懸念をもたらす」と警告している。

QAnonからみた「真実」

ところが、トランプ氏を熱狂的に支持するQAnon 支持者にとって、「真実」は全く異なる。彼らによると、「ブレナン氏こそ裏切り者で、その排除は当たり前」となる。

QAnonとは、インターネット掲示板やSNSにトランプ支持の記事を掲載する正体不明の書き手「Q」を中心とする勢力だ。QAnon支持者の多くに共有される考え方を単純化していえば、以下のようになる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反発、アマゾンの見通し好感 WBDが

ビジネス

米FRBタカ派幹部、利下げに異議 FRB内の慎重論

ワールド

カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブルージェ

ビジネス

NY外為市場=ドル/円小動き、日米の金融政策にらみ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story