コラム

【カンボジア総選挙】独裁者を支える日本の支援、中国との競争でますますやめられず

2018年06月20日(水)20時30分

4月8日、カンボジアでフン・セン首相と会談した河野太郎外相。公正な選挙を働きかけた、というが Samrang Pring- REUTERS


・日本は相手国の内政に口を出さない傾向が強いが、それは独裁や人権侵害を黙認する結果にもなり得る

・「出来レース」のカンボジア選挙を支援することは、人権や民主主義を重視しない国というイメージを日本に持たせることにもなりかねない

・相手国の政権が半永久的に変わらないという暗黙の想定が覆った時、カンボジアにおける日本の立場を挽回することは難しい

開発途上国における選挙や民主化のための日本の支援は、時に独裁的な政府を支援するものにもなる。

カンボジアでは与党が強権化し、最大野党カンボジア救国党の参加を認めない形で選挙を強行しようとしているが、日本政府はこれに明確な批判をしないまま、選挙の実施を支援している。現職政権に何一つ注文をつけない日本の支援は、人権や民主主義の観点からみて問題があるだけでなく、やはり現職政権に何一つ注文をつけない中国との差別化をも難しくしている。

カンボジア政府の強権化

6月17日、カンボジア救国党を支援する在外カンボジア人が、東京の銀座とニューヨークの国連本部前で、日本政府に7月の下院選挙への支援をやめるよう求めてデモを実施。このうち、銀座のデモには1000人が参加したとみられる。

カンボジアでは1998年からフン・セン首相が権力を握っており、2013年から第四期を務めている。長期政権のもと、カンボジアでは表現の自由や報道の自由が制限されており、国境なき記者団の最新の「報道の自由度ランキング」では179カ国中142位にとどまる。

そのうえ、2017年11月には最高裁判所が、最大野党である救国党がアメリカの手を借りて権力を握ろうとしていると断定し、解党を命じた。その結果、同党の118人の議員は5年間の政治活動が禁じられている。

これと並行して、野党以外の反体制的な言動に対する取り締まりも強化。2018年2月には不敬罪が強化され、5月には「王族がフン・セン政権と結託して救国党が選挙に出れないようにした」とフェイスブック上に書き込んだ教員が逮捕されている。

この背景のもと、野党の間には下院選挙をボイコットする運動も広がっている。これに対して、6月15日にカンボジア政府は、ボイコットした野党に対しては法的措置をとると発表。ボイコットされれば与党の勝利の正当性が損なわれるため、これを避けるための脅しといえる

欧米諸国は支援を中止したが日本は継続している

フン・セン政権の露骨な強権化に対して、アメリカやEUは7月の選挙に向けた支援を中止。これに対して、日本政府は2月、カンボジア選挙管理委員会に750万ドル相当の援助を提供。さらに4月には、訪日したフン・マネ中将との会談で安倍首相はカンボジア下院選挙への変わらぬ支援を約束した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米上院、国土安全保障省向け予算否決 移民取り締まり

ワールド

トランプ政権、温室効果ガス規制の法的根拠撤廃 「米

ビジネス

PayPay、米ナスダックに新規上場申請 時価総額

ワールド

トランプ氏、ベネズエラと「並外れた」関係 石油富豪
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベルの「若見え」な女性の写真にSNS震撼
  • 3
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の定説に挑む、3人の日本人科学者と外科医
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    エプスタイン疑惑の深層に横たわる2つの問題
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story