コラム

6歳の中国人の日本への難民申請を手伝ったら、炎上した

2018年08月20日(月)18時40分

異例のスピードで、難民申請の審査が通った

こうして路徳の子供は難民申請にチャレンジすることになった。日本語も英語もできない、6歳の子供とおばあちゃんでは大変だろうと、私も東京入国管理局に付き添った。

品川駅からバスで10分ほどの臨海部にあるが、いつも人でごった返している。東京の国際化が進み外国人人口が増えたにもかかわらず、入国管理局の施設は拡張されていないので、パンク状態なのだ。外国人対応に予算を割いても選挙で票は増えないため、政治の動きは鈍い。

各国が世界の高度人材を獲得しようと競争をくり広げているなかで、日本だけは対応できていない。本当に日本のことを考え国力を高めようと願っている政治家ならば、優秀な外国人の引き抜きに力を注ぐはずなのだが、目の前の一票ばかりが気になる小人物ばかりのようだ。

さて、入国管理局で難民認定を申し込んだ。

窓口の職員は面倒臭そうな態度で話を聞くと、「あなたは弁護士? 行政書士?」と尋ねてきて、「申請を受けても認可されないので」などと適当な理由をつけて追い返そうとしてくる。ともかく申請をさせてほしいと言っても相手にしない。しばらく押し問答を続けた後、私はそっと名刺を差し出し、自らの名前を名乗った。

すると、突然相手の態度が変わった。少し待ってほしいと一度オフィスに戻った。なにやら相談する声が聞こえる。戻ってくると、打って変わったように親切な態度に変わり、今まで見ようともしなかった資料に目を通し始める。私がこれまでにメディアに書いた記事のコピーを見ると、目の色が変わったのが分かった。

そこからはトントン拍子で話が進んだ。おそらくは異例のスピードで審査がなされ、7月18日には東京入国管理局の「難民調査部門」から待望の葉書が発送された。難民申請を受理するという内容だった(ただし、私の家に送ってもらうはずだったが、手違いで子供と義母の滞在先に送られたため時間がかかってしまった。入管を再訪して2人分の8000円を払い、正式に難民申請が受理された者に与えられる特定活動ビザが交付されたのは8月に入ってから。〔※2〕これには冷や冷やさせられた!)。

※2:「難民認定された」と誤って記載していたため、「難民申請が受理された者に与えられる特定活動ビザが交付された」に訂正しました(2018年8月21日17時)。なお、7月10日に難民申請が受理されたとツイートしていますが、その後追加資料が必要と言われ、正式に受理されたのは7月18日です。

今後、審査が始まるわけだが、その間子供は民主主義国・日本で安心して生活を送ることができる。中国の民主化を望む者であれ、あるいは民主化よりも政治の安定を優先する者であれ、およそ良心があるかぎり、6歳の子供が「売国奴の子」として迫害されれば胸を痛めるだろう。私も子供を持つ親として、1人の子供が辛い境遇から抜け出せたことを喜ばしく思う。

私がやったことといえば、入管に付き添い、通訳をし、代わりに交渉をしたぐらい。難民申請を認めたのは日本政府の判断だ。民主主義国として正しい判断を下した我が日本を誇りに思う。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story