コラム

東京で起きた中国人女性殺人事件、日本は無関心のままでいいのか

2017年11月28日(火)18時56分

死刑を求める中国世論に対し、丁寧な説明が必要になるかもしれない

実は私は当初からこの事件に関わってきた。事件の3日後、江秋蓮さんが来日したが、その日のうちに会い、日本での滞在をサポートしてきた。歌舞伎町で培ったネットワークを駆使し、事件の内情、捜査の現状について調べてきた。この一件について最も詳しいジャーナリストは私だろう。

中国を騒がすルームメイトの謎についてもいくつかの新事実をつかんでいるが、12月11日から裁判が始まるため、今は明らかにできない。詳細は結審後に公表することになるだろう。

ただ、私が危惧するのは日中の温度差だ。日本メディアは事件直後こそ取り上げたものの、今や中国人の一大関心事になっているこの問題をほとんど取り上げていない。安全と思われていた日本でこれほど残虐な殺人事件が起きたことに中国人は驚き、中国ではトップニュースとなっているにもかかわらず、だ。グローバル化の時代にこの鈍感さはいかがなものだろうか。

裁判を控えた今、中国で注目を集めているのは日本の司法、殺人事件に関する量刑だ。江秋蓮さんは容疑者の死刑を求めているが、日本では殺人犯といえども、被害者が1人では死刑判決が下りるケースは少ない。これが中国人には不可解なのだ。

たんに中国は死刑が多い国だからというわけではない。中国における「公道」(正義)とは、社会の多くの人々が納得する落としどころを見つけることにある。一人娘を失った母の悲痛な思いがあり、それに多くの人々が共鳴している今、司法がその気持ちに応えることこそが正義なのだ。日本では司法が世論になびくようなことがあれば、批判の対象となるだろうが。

今回の事件では加害者も被害者も中国人だが、だからといって日本の司法が中国式になるべきだとは私も思わない。ただし日本と中国の違いを正しく認識し、それを丁寧に説明していくことが必要だ。

2007年に起きた名古屋闇サイト殺人事件では、被害者が1人だったにもかかわらず、残虐な犯行だったこと、反省が見られなかったことなどを理由に実行犯3人のうち2人に死刑判決が下された(残る1人は無期懲役)。もし陳世峰が死刑にならなかったとすれば、何が判断の違いを招いたのか、恣意的ではない日本のルールがあることを説明しなければ、中国人の日本司法に対する怒りを招くことも考えられる。

最後に江秋蓮さんの言葉を紹介して本稿を終わりにしたい。


(私の願いは)陳世峰を死刑にして欲しい。それだけです。娘は私の人生の全てでした。今の望みは「陳を死刑にした」という知らせを持って、あの世で娘と再会することだけです。日本の量刑基準では、死刑判決は出ないだろうという話を聞いたことがあります。ですが殺した人間の数で量刑が決まるのはおかしくないでしょうか。全く罪がない娘を殺した、しかもとても残忍な方法で殺したのです。それで極刑にならないのはおかしいのではないでしょうか。しかも陳が殺したのは娘だけではありません。私も、そして私の母も事件によって殺されたも同じ。一家皆殺しと同じなのです。私は命をかけて、陳の死刑を求めていきます。ご支援をお願いいたします。


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プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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