コラム

中国の旅行会社が「新シルクロード」に日本メディアを招待した理由

2017年04月18日(火)16時03分

日本の歴史の教科書にも出てくる「兵馬俑」をこの目で(写真:土居悦子)

<3月下旬、陝西省、新疆ウイグル自治区、甘粛省を回るツアーに、日本のメディア関係者と参加してきた。中国の観光地が洗練されつつあることを強く感じたが、旅行を通して抱いた感想はそれだけではない>

こんにちは。新宿案内人の李小牧です。

3月22日から29日にかけて、中国西部を訪問した。陝西省、新疆ウイグル自治区、甘粛省の3省・区を8日間で回るツアーだ。メンバーはテレビ局、雑誌、映画など日本のメディア関係者、そして私と大学を卒業したばかりの私の息子だ。

「新長安・新シルクロード・新夢路視察団」というびっくりするほど大層な名前がつけられたこのツアーは、現地の旅行会社の招待によって実現した。10人を超えるツアーの招待費用は数百万円に上るだろう。なぜこれほどの資金を費やして私たちを招いたのだろうか。その理由は私、李小牧が中国の人気テレビ番組にたびたび出演する人気言論人だからというだけではない。

1977年の文化大革命終了後、中国は改革開放政策を推進し、外資と技術の受け入れによる経済成長をはかった。その中で日本が果たした役割は大きい。

特に中国西部は日本人が大好きな中国の歴史世界で重要な役割を果たしていることもあって、日本人に人気の旅行先だった。唐の都・長安(現在の陝西省西安市)に行ってみたい、シルクロードのオアシス都市・敦煌(甘粛省)で歴史を感じてみたい。そう考えた日本人旅行者が数多くやってきたのだ。

日本人旅行者は中国西部に貴重な観光収入をもたらした。それだけではない。敦煌の世界遺産、莫高窟(ばっこうくつ)で目にした光景には胸が熱くなるものがあった。

lee170418-14.jpg

世界遺産となっている仏教遺跡の莫高窟(写真:土居悦子)

莫高窟は700以上の洞窟から構成されているが、入り口に日本人のネームプレートが設置されている洞窟が多々あった。ガイドに聞くと、修復費用を出した寄付者の名前なのだという。莫高窟は英国、フランス、日本などの国に略奪された負の歴史があるが、修復になると日本の独壇場だ。負の歴史だけではない、日中のつながりを感じることができた。

ところが今では日本人旅行者の数は激減している。反日デモや新疆ウイグル自治区の騒乱の影響が大きいという。2016年から少しずつ戻ってきたというが、もっと日本人に来てもらいたいというのが彼らの切なる願いだ。

だから、日本のメディアに現地を見てもらい取り上げてもらいたい、また日本人の目から見て改善点を指摘してほしいと、大金を支払ってまでツアーを組んだのだ。メディア関係者だけではなく、一般人の目から見た指摘も欲しいということで、私の息子もツアーに加わった。

日本人の中国旅行を増やす――。これはなにも中国を儲けさせるだけの話ではない。日本人は今、内向きになっているが、これでは国の活力は生まれない。より多くの人々、とりわけ若者たちに海外を見てほしいと私は考えている。

我が息子にしても、元・中国人の血をひいているというのに今回が3回目の中国旅行だ。大学では中国文学を専攻したのだが、どうも中国にあまりいいイメージがないようで旅行しようとしない。内向き日本の典型のような息子を、この旅で少しでも変えることができたらいい。これがもう1つの目的となった。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ249ドル安 トランプ関税

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story