コラム

北方領土問題でロシアが課した「新たなルール」 日本の対応は

2017年06月19日(月)17時53分

韓国に配備されたTHAAD弾道ミサイル防衛システム Kim Hong-Ji-REUTERS

<経済協力をしても北方領土を返すとは限らない、というロシア側の新たなロジック>

異例のブリーフィング

2017年6月15日、在日ロシア大使館と同武官室は、日本メディアなどを招いて異例のブリーフィングを行った。

「異例」というのは、ロシア大使館武官室がこのような会合を開催することが極めて珍しいためである。

武官室に勤務するロシア武官たちはロシア軍の情報機関である参謀本部総局(GU。従来は参謀本部情報総局=GRUと呼ばれていた)に所属する諜報要員であるとみられており、基本的にはメディアの前には姿を現さない。

これまでにも武官が日本のメディアに登場したのは、東日本大震災直後にロシア空軍機が日本周辺を飛行したことに対して釈明を行ったケースなど、かなりの重要事態に限られていた。

これに対して今回のブリーフィングではカメラを招き入れており、日本側に対して重要なメッセージを発しようとしたと考えられる。
では、ロシア側が日本側に発しようとしたメッセージとは何か。

日米ミサイル防衛を懸念するロシア

ロシアの意図を読み解く前に、まずはブリーフィングにおいてロシア側が示してきたものを確認しておきたい。

ブリーフィングで記者団に示された資料は、ロシア語と日本語で「米国の多層的グローバルミサイル防衛:ロシア軍事安全保障及び世界の戦略的安定性に対する脅威」と銘打たれており、米国のミサイル防衛システムがロシアの核抑止力や軍備管理を損なうとする従来のロシア側の立場を繰り返したものであった。

koizumi170619-2.jpg
ロシア大使館が配布した資料

ロシア国防省は2012年に開催したモスクワ国際安全保障会議でもこのようなプレゼンテーションを行っており、それ自体は非常に珍しいというものではない。

また、日本が配備を検討しているTHAAD(終末高高度戦域防衛)ミサイルまたはイージス・アショア(陸上型イージス)が米国のミサイル防衛システムの一部となることへの懸念も表明された。

ロシアはここ数年、従来から反対していた東欧へのミサイル防衛システム配備だけでなく、日米のミサイル防衛協力についても懸念を表明しており(日露防衛・外交トップ会談〔2プラス2〕 その意義と注目点)、これも基本的には従来の姿勢の延長上にあるものと考えられよう。

韓国へのTHAAD配備と北方領土

一方、このブリーフィングでは、ロシアが昨年、北方領土に新型ミサイル(ロシアが北方領土に最新鋭ミサイルを配備 領土交渉への影響は)を配備したのは一方的な軍事力の増強ではなく、米国がミサイル防衛システムTHAADを韓国に配備したことへの対抗措置であったという説明が行われた。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story