コラム

「祖国防衛者の日」を迎えたロシアと情報作戦、歴史戦、サイバー戦

2017年02月24日(金)19時50分

戦勝記念パレードのリハーサルに臨むショイグ国防相(2016年) Sergei Karpukhin-REUTERS

<ショイグ国防省が初めて存在を明らかにした、これまでよりはるかに強力な「情報作戦部隊」とは?>

「祖国防衛者の日」

2月23日は、ロシアなど旧ソ連圏の「祖国防衛者の日」に当たる。

もともとは1922年に赤軍の創立記念日として定められたものだが、現在でも従軍経験者や軍人、そして潜在的な「祖国防衛者」である男性一般を讃える祝日としてロシア国民に広く祝われている(2002年から休日となった)。

筆者も「祖国防衛者の日」前日に帰宅してみると、ロシア出身の妻が次のように物騒な手遊び歌(その名も「祖国の防衛者」という)を娘に教えているところだった。

koizumi1.jpg
「祖国の防衛者」と題されたロシアの手遊び(筆者撮影)


国境警備隊員、ヘリコプター乗り
軍医に戦車乗り
今度は空挺隊員、パイロット
スナイパーと砲兵......

日本社会の特異性を差し引いても、「軍事」や「軍隊」と一般社会との距離がおそろしく近いところがロシアのひとつの特徴であろう。

明らかにされた「情報作戦部隊」の存在

「祖国防衛者の日」に合わせて、ロシア連邦議会は22日に「政府の時間」(公聴会)を開催した。答弁に立ったのは、セルゲイ・ショイグ国防相である。

この中でショイグ国防相は、千島列島に新たな1個師団を配備する計画を明らかにするなど様々な興味深い発言を行っているが、本稿はまた別の発言に注目してみたい。

「政府の時間」中、ロシア軍内にも敵のプロパガンダに対抗する部隊が必要ではないかという質問に対して、ショイグ国坊相は、ロシア軍内にはすでに「情報作戦部隊(войска информопераций)」が存在しており、それはソ連軍に存在していたものよりもはるかに効果的であり強力だと述べたのである。

また、プロパガンダ(この言葉はロシア語では必ずしも悪い意味ばかりではなく、自陣営の広告・宣伝活動を指す場合もある)はスマートで効果的、かつしっかりしたものでなければならないともショイグ国防相は述べている。

これらの発言を見ると、「情報作戦部隊」とは要するにプロパガンダ活動を行ったり、敵のプロパガンダ活動に惑わされないよう軍内の思想的統制を担当する部隊というように見える。ショイグ国防相が述べるようにそのモデルをソ連軍に求めるならば、共産党の出先機関であった政治総局のような存在ということになるだろうか。

情報作戦の重要性

ショイグ国防相が触れた「情報作戦部隊」が実際にどの程度のものであるのかははっきりしないが、ロシア軍が情報戦の重要性を痛感していることは明らかであろう。

たとえば2008年のグルジア戦争は、グルジア軍、現地民兵、ロシア軍の散発的な衝突の中で発生したが、英語に堪能なグルジアのサァカシヴィリ大統領による働きかけや民間PR会社の活躍によってロシアの一方的侵略であるというイメージが作られた。

一方、2014年のクリミア介入では、ロシアは各種の国営宣伝メディアをフル稼働させて自国の立場に理解を求めるとともに、ウクライナにはロシア軍など送っていないなど、自国に有利な情報を流布させた(実際にはクリミア半島には初期段階からロシア軍が送り込まれており、のちにプーチン大統領もこのことを公式に認めた)。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

軍民両用品目の対日輸出規制強化、民生用途に影響せず

ビジネス

中国テック3社、香港上場初日に軒並み上昇

ビジネス

ユーロ圏の消費者インフレ期待、11月は横ばい=EC

ビジネス

ECBは金利変更必要ない、各国は成長促進を=ポルト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 5
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 6
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 7
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 8
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 9
    公開されたエプスタイン疑惑の写真に「元大統領」が…
  • 10
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 10
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story