コラム

ロシアの新たな武力機関「国家親衛軍」はプーチンの親衛隊?

2016年04月13日(水)16時30分

 だが、プーチン氏が首相職から大統領職へと復帰する直前の2012年春、国家親衛軍の設立話が再浮上する。当時、一部のメディアで報じられた構想によると、これは国内軍だけでなく、軍の空挺部隊や国家非常事態省まで統合して30-40万人の組織を設立するというものであった。ロシア政府はただちにこの構想を否定したが、なんらかの観測気球であった可能性も否定できない。当時、ロシア政府内部では前述の反政権デモが内政の安定を揺るがすものとして深刻に受け止められていた上、一度は鎮圧したはずの北カフカスのイスラム過激主義勢力が活動を再活発化させていた時期であり、こうした強力な準軍事組織が必要とされたとしても不思議はない。

「カラー革命」の脅威?

 このような経緯を踏まえて、国家親衛軍のような強力な国内向け準軍事組織が設立されたことの意義を考えてみよう。

 第一に指摘できるのは、国内軍にOMONが統合されたことである。OMONは大規模なイベントの警備や反体制デモなどの鎮圧を任務とする警察組織であり、国内軍内にも同様の任務を担当する特別自動車化部隊(SMVCh)という似たような部隊が存在するので、両者の統合は、重複の排除による合理化策という側面は存在するだろう。

 第二に、今年9月には下院選挙が予定されており、しかも経済危機下で国民の不満が鬱積していることを考えれば、2011年末のような事態の再来をプーチン政権が恐れているという側面もまた十分に考えられるところである。国家親衛軍設立が明らかにされた2日後、プーチン大統領の政敵として知られる富豪のホドルコフスキー氏らが設立した「開かれたロシア」は、ウェブサイト上で「モスクワ近郊における国家親衛軍の秘密演習」と題された映像を公開した。これはモスクワ郊外のミャチュコヴォ飛行場で実施されたもので、内務省が多数の要員や装甲車を動員して暴徒を鎮圧する訓練の様子が収められている。こうした訓練はこれまでも実施されており(たとえば2015年には「ザスロン2015」と呼ばれる大規模鎮圧演習が実施された)、国家親衛軍の想定している事態がどのようなものかを垣間見せたものと言える。

 第三に、国内治安に対するより深刻な懸念も見逃すことはできない。ロシアは近年、アフガニスタン情勢やシリア情勢に連動してロシア国内のイスラム過激主義勢力が活動を活発化させる可能性への懸念を繰り返し表明してきた。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story