コラム

「パー券」資金還流問題、議員のノルマとキックバックと重大な嫌疑

2023年12月06日(水)15時45分
パー券

「パー券」問題に岸田首相はどう対応? Bing GuanーREUTERS

<自民党派閥パーティーの不記載問題が各派の裏金疑惑に飛び火している。派閥議員がパー券を売りさばくメカニズム、そしてそこに潜む重大な嫌疑とは>

「政治とカネ」の問題が政府・自民党を直撃した。焦点になっているのは「派閥のパーティー券」だ。

政治資金を集めるために政治家はそれぞれパーティーを開くが、自民党の主要派閥もそれとは別に大規模な政治資金パーティーを主催する。主要5派閥のパーティーについて政治資金収支報告書を精査したところ、270件、計4000万円超について「支払者情報の不記載」があることが判明。さらにパーティー券(パー券)売り上げの一部が議員にキックバックされており、この「還流」の実態が派閥・議員側双方の政治資金収支報告書に記載されておらず、キックバック分が派閥のパーティー収入として計上されていない疑惑が浮上している。「裏金」が疑われる額は、最大派閥の清和政策研究会(安倍派)で、過去5年で少なくとも1億円を超え、数億円に達するとも報じられた。

何が問題なのか。ポイントとなるのは政治家個人と異なる派閥パーティーの特性だ。

政治家個人の場合、パー券の売上額から会場費やパー券印刷費などの必要経費を差し引いた額は全額、その政治家(資金管理団体など)に帰属する。多く売れば売るほど政治家の収入は増える。次の選挙で再選を果たすために必要な日常的活動の原資として、議員歳費や調査研究広報滞在費(旧文通費)などの公費だけでは足りず、膨大な陳情処理の見返りにパー券を広く薄く販売する議員は多い。

支援する側には150万円を購入上限とする量的制限がかかるが、会社経営者がグループ企業の子会社に分散させて購入させたり、あるいは支援者が配偶者や親族に購入させることも横行する。他人名義での購入は違法だが、他人に依頼することは可能だ。

そもそも20万円以下のパー券購入の場合、購入者の氏名・住所・職業等は政治資金収支報告書に記載する必要がないので、外からは確かめようがない。つまり20万円以下のパー券購入は、企業や支援者にとっては実質的に「匿名少額寄付」の役割を果たす。企業献金は1994年の政治改革で原則禁止されたが、パー券は抜け穴として機能しているのだ。

誰が何枚購入してくれたかは政治活動をする上で重要な機密情報であり、その後の付き合いの基礎となる販売リストは厳重に管理される。収支報告書の不記載・虚偽記載は5年以下の禁錮または100万円以下の罰金に処せられるが、立件できるのは故意または重過失の場合のみ。収支報告書記載事項の事後的訂正はいつでも可能で、ザルに近い。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

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