コラム

岸田辞任ドミノの遠因──「パー券政治」というカラクリが日本政治をダメにしている

2022年11月29日(火)17時25分

そのためパー券譲渡という「薄い利権」をめぐる関係構築が重視され、支援者の要望陳情を処理し「報恩感情」に訴える「小さな政治」に非世襲政治家は翻弄される。政治とカネの問題を解消すべく、小選挙区比例代表並立制と政党交付金制度を導入した1994年の政治改革の趣旨は、30年近くたった今なお実現には程遠い。

「大臣ポスト格差」はある

死刑ハンコ発言で更迭された葉梨康弘前法相は「法務大臣になってもお金は集まらない、なかなか票も入らない」とパーティーで述べた。確かに大臣ポストの違いによる政治的吸引力の差は存在する。

例えば21年度一般会計予算は、国土交通省が6兆578億円、厚生労働省に至っては33兆1380億円と巨額であるのに対して、法務省は7431億円にすぎない。

許認可に関わる行政処分の根拠法令数は、国土交通省が2805件、厚生労働省が2451件であるのに対して法務省は360件。関連業界の規模と業界に対する影響力には雲泥の差がある。

葉梨前法相の発言が「大臣をやると家が建つ」という私腹肥やし型の古典的腐敗に言及したのではなく、大臣格差による政治的吸引力の差とその帰結としてのパー券収入の多寡を指しているとしたら、この自虐的な嘆きは現代日本における「小さな政治」の本質を吐露したものとも言える。

民主政において多数派の決定に国政を委ねることが正当化されるには、少数派が納得できるだけの説明が議論の場で提供されることが必要となる。政治家の説明責任は本質的な要請であり、その政治家が誰によって支えられているかを示す財政的基盤の開示は健全性確保の観点から重要だ。

今回の政治とカネをめぐる問題は政治資金のずさんな処理だけでなく、発覚後の当人の説明が極めて不十分だった点にも批判が集まった。

寺田前総務相は「違法性はない」という抗弁に終始して自沈した。それはその場しのぎの対応で国民の信頼を損ねたというだけでなく、政治家の財政的基盤についての説明責任と透明性の確保が民主政においてどれほど本質的に重要なのかが理解されていないことが露呈したからだ。

イギリスでもジョンソン政権崩壊の遠因となり、アメリカでもドナルド・トランプ前大統領の納税不正問題が指摘されている。現代のデモクラシー国家において政治とカネに関わる不祥事の処理を誤れば致命傷になる。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米アルファベット、時価総額初の3兆ドル台 取引序盤

ワールド

トランプ氏、四半期企業決算見直し要請 SECに半年

ワールド

米中閣僚協議、TikTok巡り枠組み合意 首脳が1

ワールド

トランプ氏、FRBに「より大幅な利下げ」要求 FO
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story