コラム

岸田政権には支持率回復の処方箋がある

2022年10月15日(土)08時00分

F1観戦は支持率回復につながるか(10月3日、三重県の鈴鹿サーキットで)Issei Kato-Reuters

<支持率急落に苦しむ岸田政権。「やるべきことをやらず、やらなくてもいいことをやっている」のが最大の原因だが、それでも窮地の岸田首相が復活できる「秘策」はある>

岸田政権の支持率が急落している。時事通信が昨日公表した最新世論調査(7日〜10日実施)によると内閣支持率は27.4%で、前月と比べて4.9ポイント減少した。毎日新聞の世論調査(9月18日公表分)で既に支持率29%という数値が出ていたが、9月27日の安倍晋三元首相国葬儀が終わっても下落傾向に歯止めはかかっていない。

自民党支持率23.5%と足し合わせた通称「青木率」は50.9ポイント。青木率とは、政権支持率と与党第一党の政党支持率を合わせた数値が「50ポイントを割り込むとその政権は危うい」とする、青木幹雄元内閣官房長官が唱えたとされる経験則だ。岸田政権はその存続が危ぶまれる危険水域に入りつつある。直近に国政選挙は予定されていないとはいえ、来年4月には統一地方選挙が控えている。地方選挙が戦えないという声が高まれば党内の求心力は失われていく。

その原因はいくつかあろう。まずは「やるべきことをやっていない」印象を与えている事が大きい。急激な円安による消費者物価の高騰が国民生活を直撃している。政府は第二次補正予算を組んで大型の経済対策を打ち出そうとしているが、13日には1ドル147円台後半まで円相場が下落。急激な円安が止まらぬ中で、岸田政権の経済対策は遅すぎる印象を与えており、国民の不安が募っている。

「やるべきことをやっていない」印象と言えば、旧統一教会問題も同様で、宗教二世と呼ばれる信者の親族が被った被害に注目が集まる中、政権としてどのような救済策を具体的に講じるのかが見えてこない。

消費者庁の有識者検討会は、宗教法人法に基づく「調査」の実施を提言に盛り込む方向と伝えられているが、文化庁は解散命令請求に対して慎重姿勢を崩していない。しかし解散命令自体を判断するのは裁判所であり、それとは別に、政治がイニシアチブをとることが出来る方策はいくらでもある。宗教二世が受けている被害実態の詳細調査や日本から海外への不透明な送金の実態解明だけでなく、旧統一教会との踏み込んだ関係が指摘されている閣僚や議長に引導を渡すぐらいの積極姿勢が見えていれば、ここまで支持率が低下することもなかっただろう。

外交・安全保障分野では、連日のように北朝鮮が発射した弾道ミサイルが日本近隣を飛び交っている。3期目続投を果たすだろう習近平総書記が「台湾侵攻」を決断する日はそう遠い先のことではない、という指摘もある。ウクライナ侵攻を含めて、「外交の岸田」を標榜する割に、その対応は官僚的な定型対応に終始し、毅然とした姿勢が国民に伝わっているとは言い難い。

旧・文書通信交通滞在費の問題も積み残されたままだ。6月15日に閉会した通常国会で法改正が行われ「調査研究広報滞在費」に名称が変わったが、実態に変化はない。臨時国会で日本維新の会と立憲民主党が6項目について共闘することで合意したが、その一つが文書通信交通滞在費改革。「使途の公表」を含めて、岸田政権としてどう取り組んでいくかは音無しの構えのままだ。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story