コラム

岸田政権には支持率回復の処方箋がある

2022年10月15日(土)08時00分

「新しい資本主義」ならぬ「古臭い縁故主義」

岸田政権は「やらないでいいことをやっている」印象も強い。それはタイミングと説明が悪いからでもある。例えば長男の首相秘書官就任問題は、通常国会閉幕直後のタイミングであればまだしも、宗教二世の親子関係に同情があつまっている最中に唐突に行われた。「新しい資本主義」ならぬ「古臭い縁故主義」の匂いを打ち消すだけの説明が為された訳でもない。

安倍元首相の国葬儀は、なぜ内閣・自民党合同葬ではなく国葬なのかといった疑問に答えるだけの充分な説明がなされないまま実施され、国民の間にある種の「わだかまり」を残した。イギリスのエリザベス二世女王の国葬直後というタイミングも「弔問外交」に少なからぬ影響を与えた。国葬自体の実施の是非は評価が分かれる難しい政治問題であり、実施時期の選択も容易でないことは確かだが、少なくとも国葬成功によって政権の求心力を高めるという狙いは裏目に出たと言えよう。

最後に問題なのが「何と闘っているか」が見えないことだ。岸田首相は昨年8月26日に自民党総裁選出馬を表明した時、「岸田ノート」を掲げて党役員の任期を最長3年に制限すると啖呵を切った。当時絶大な権勢を誇っていた二階俊博幹事長に対するファイティングポーズは驚きを与えた。その姿勢はどこに消えたのか。

岸田首相は宮澤喜一以来、久しぶりとなる宏池会出身の総理だ。お公家集団とも官僚気質が抜けきらないとも揶揄されることもある宏池会だが、例えば大平正芳には盟友田中角栄が居た。今の岸田首相には、市井の人々の喜怒哀楽に思いを寄せ、時には閣僚更迭などの汚れ役を買って出るような懐深い盟友がいるだろうか。

岸田首相が窮地を脱するためには、やるべきことをやり、やるべきでないことをやらず、「既得権益」や「縁故主義」あるいは「専制国家の横暴」と闘う姿勢を明確に、そして分かりやすく国民に示すことが重要だ。支持率回復の肝となるのは広報の強化である。

鈴鹿のF1レース視察や東京豊島区の子供支援団体視察といったライブ感ある動画の投稿など、岸田首相のTwitter(@kishida230)発信は改善を見せている。こうした広報体制を更に一歩踏み込んだものにすることが必要だ。例えばハロウィンで、「検討使」ならぬ「遣唐使」のコスプレ姿の岸田首相が衣装を脱ぎ捨てる動画をTikTokにアップし、対中強硬姿勢を見せつけるぐらいの「振り切った」広報である。遣唐使プロジェクトにご執心だった出版大手会長の五輪汚職事件を糾弾する構えにもつながるが......いかがだろうか?

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プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

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