コラム

いつしか人命より領土を重視...「政治家」ゼレンスキー、「軍人」サルジニー総司令官の解任で戦争は新局面に

2024年02月10日(土)15時51分

プーチン「戦争終結の話し合いの時が来た」

解任の理由について、ライアン氏は「反攻失敗の結果、膨大な死傷者が出た上、ロシアのプロパガンダに利用された。文民と軍の緊張を悪化させ、米国の一部にウクライナへの支援を見直させるという外交的被害が生じた。 このような失敗の後では説明責任が極めて重要になる。ザルジニーは総司令官としてその責任を負わなければならなかった」と解説する。

解任によってウクライナ軍の指揮、軍内部の不満、大統領への助言、同盟国や安全保障パートナーとの関係、政府の安定に影響が出ることが予想される。ザルジニー氏が今後どう振る舞うかも大きなインパクトを持つ。「反攻の失敗以来、ウクライナの戦略と全体的な戦争努力に何らかの揺り戻しやリセットが必要であることは以前から明らかだった」(ライアン氏)

ウラジーミル・プーチン露大統領は8日、元米FOXニュースの司会者のインタビューに応じ、戦争を終結させるためにウクライナの領土をロシアに割譲する「協定」を結ぶことを米国側に求めた。610億ドル(約9兆1000億円)のウクライナ支援に待ったをかける米共和党と返り咲きを狙うドナルド・トランプ前米大統領への秋波である。

「ポーランドにも、ラトビアにも、他のどこにも興味はない。西側が恐怖心を煽っているだけだ。ロシアが戦場で負けることはないと西側の権力者たちが悟ったからこそ戦争終結の話し合いの時が来た。話し合いが実現するとしたら、彼らは次に何をすべきかを考えなければならない。われわれには対話の準備ができている」とプーチンは勝ち誇ったように言った。

プーチンは軍の態勢を立て直すため、時間を稼ぎたい。時間は人的にも、物的にも優位に立つロシアに有利に働く。81歳になったバイデン大統領のボケ方が白日の下にさらされる中、ウクライナの旗色はますます悪くなっている。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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