マクロスコープ:エンゲル係数が示す貧困化、「統計のゆがみ」と識者 実態と乖離か

物価高対策が20日投開票の参院選の争点の一つとなる中、消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」への関心が高まっている。写真はスーパーマーケットの精肉コーナー。2023年1月、東京で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)
Yusuke Ogawa
[東京 16日 ロイター] - 物価高対策が20日投開票の参院選の争点の一つとなる中、消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」への関心が高まっている。2024年は43年ぶりの高水準となり、苦しい家計を象徴する指標との声も聞かれる。日銀も利上げ判断の重要材料として係数の推移を注視しているとされるが、識者からは「統計調査にゆがみがあり、実態を正確に反映していない」といった指摘が少なくない。
総務省の家計調査によると、24年に1世帯(2人以上)が消費に使った金額は月平均30万0243円で、物価変動を除いた実質では前年比1.1%減少した。一方、円安進行に伴って輸入コストが増加したほか、人件費や資材費も上昇し、食品の価格改定が続出。帝国データバンクによると、主要食品メーカーが昨年値上げした商品は計1万2520品目に達した。
その結果、エンゲル係数は前年比0.5ポイント増の28.3%と、1981年以来の高い水準となった。今年に入ってもコメの高騰などを背景に、係数は依然として高く推移する。
エンゲル係数は、19世紀のドイツの統計学者エルンスト・エンゲルが提唱した指標で、暮らしの金銭的余裕を映す。食費は生活に不可欠で削りにくい支出であるため、その割合が大きくなると、衣服や娯楽といった他の出費を圧迫する。すなわち、通常は所得が低いほど係数は高くなり、反対に所得が上がれば係数は低くなるとされてきた。日本では1970年時点で34.1%だったが、豊かな中間層の拡大に伴い長期にわたって下落を続け、2005年は22.9%にまで低下した。
<社会構造の変化>
だが近年は上昇傾向に転じ、年間ベースにおいて、生活苦の目安とされる「3割」の目前に迫っている。実質賃金が上がらず、食費が膨らむ中、負担感をおぼえる人が広がっているのは間違いない。
とはいえ、大和総研の矢作大祐主任研究員は「係数の上昇が必ずしも日本人の困窮を示しているとは限らないのではないか」と指摘する。その理由の一つが、高齢化の急速な進展だ。子供の独立で教育費の不安がなくなる高齢世帯では、多少高価でも美味しいものを食べたいと考える人が多いため、エンゲル係数は上昇しがちだ。
また、矢作氏は「海外の事例をみても、女性の社会進出の加速は食費の増加につながりやすい」と話す。仕事と家事の両立に忙しい共働き世帯では、外食の頻度や、割高な総菜など中食の購入回数を増やす傾向にある。
<回答に抜け漏れ多く>
家計調査の回答にゆがみがあり、エンゲル係数は実態を正しく反映できていないーー。野村証券の岡崎康平チーフ・マーケット・エコノミストはこんな見方を示す。同調査は基本的に夫婦のどちらかが世帯全体の収支を回答するが、最近は財布を分けるケースが一般化。配偶者の収支を正確に把握していないケースが目立ち、調査回答から抜け漏れした支出が増えている可能性があるという。つまり支出総額が実態より過小に計上され、見かけ上で(日々の支払いが分かりやすい)食費の割合が高く算出されてしまうのだ。
シンクタンクのNIRA総合研究開発機構が以前、エコノミストを対象に経済統計に関する評価アンケートを実施したところ、日銀短観や貿易統計など計23の景気動向指標のうち、最も点数が低かったのが家計調査だった。有効サンプル数が少ない上に、記入作業が煩雑になることから、世帯によって回答の精度にバラつきが出やすいためだ。すべての支出を包み隠さず明かすことへの心理的抵抗感から、誠実な回答ではない場合もある。
それでも、国内総生産(GDP)の計算にも用いられる重要な統計には違いなく、物価高の局面とあって、政府や日銀関係者も家計調査から導き出されるエンゲル係数に関心を寄せる。
野村証券の岡崎氏は「精度を高めるために、調査のオンライン化を一段と推進するべきだ。調査内容を簡略化する代わりに、サンプル数を増やした新たな統計を国が用意し、家計調査を補完するのも効果的だろう」と話した。
(小川悠介 編集:橋本浩)
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