クルアーン朗誦者「ムクレッ」を通してアラブ世界を知る カイロ旧市街で出会ったアブドル・アーティー師の話

カイロ旧市街にあるフセイン・モスク(2016年9月) Orhan Cam-Shutterstock
<異文化との接触機会が増えてきた今日、アートや食とは違う文化の「見えない部分」にも思いを馳せたい>
海外に行くときに最初に直面することの一つに、実際には目に見えないが、それが何であり、どのように機能するかを理解していないと、訪問者とその旅の目的に少なからず影響を与える可能性のあるものがある。それが、いわゆる「文化」である。
現在の日本は、イスラム教徒やアラブ人を含む多様な文化的背景や外国籍の人々が暮らす多文化共生社会へと変化しつつある。同時に、人々がさまざまな背景の異なる文化や行動様式に日常的に触れる機会も増え、異文化コミュニケーションはもはや特定の限られた人たちだけに起こる珍しい出来事ではなくなってきている。
こうした日本社会全体の変化に加え、偏見や誤解、ステレオタイプといった障壁によって対立が蔓延する国際社会を前にして、注目を集めているのが「深層文化」とも訳される"Hidden Culture"である。
ここで言う"Hidden Culture"とは、現代美術やアート、食べ物、オペラなどのような類のものではない。そもそも「文化」という言葉自体は中立的な用語であり、それ自体は良いものでも悪いものでもない。しかし、文化には「見える部分」と「見えない部分」の両面がある。いわゆる「表層文化」と「深層文化」の2種類があるとされている。
深層文化とは、人々が社会を秩序立ててきた歴史的かつ集団的な思考様式や行動パターン、価値観、社会的取り決め、マナー、発想、および生き方などを指すものである。