コラム

ゼレンスキーは英雄か、世界を大戦に巻き込むポピュリストか

2022年02月27日(日)21時12分
ゼレンスキー

陥落間近といわれるキエフから国民を鼓舞し続ける(あるいはその芝居を続ける?)ゼレンスキー(2月27日) Ukrainian Presidential Press Service/REUTERS

<元コメディアンの素人政治家と軽んじられがちなウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻に対して誰も予想しなかったほどの驚異的な善戦を続けている。その正体は>

[ロンドン発]質量ともに圧倒的に優位に立つロシア軍を相手に驚異的な健闘を続けるウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領(44)を支援する国際的な動きが強まっている。米欧諸国は26日、ロシアの銀行の一部を国際的な決済ネットワークSWIFTから排除することを決定する一方、ウクライナへの攻撃兵器の輸送を加速させた。

ボリス・ジョンソン英首相は同日、ゼレンスキー氏と電話会談し、「ゼレンスキー氏とウクライナ国民の驚くべきヒロイズムと勇気を称賛する。ウラジーミル・プーチン露大統領は事前に計算していた以上に大きなウクライナの抵抗に遭っている」と伝えた。外交・経済的にロシアを国際社会から完全に孤立させることが必要との考えで両首脳は一致した。

ゼレンスキー氏と足並みが乱れていたジョー・バイデン米大統領も25日、電話で首脳会談を行い「自国を守るために戦うウクライナの人々の勇敢な行動を称賛する」と激励した。そのゼレンスキー氏は同日、首都キエフの大統領府前で首相、軍関係者らに囲まれ、「皆ここにいて私たちの独立と国を守っている」と語る動画をSNSに投稿した。

26日にもSNSで「私はここにいる。私たちは武器を捨てない。祖国を守る。武器は私たちの力だ。ここは私たちの土地だ。私たちの祖国。私たちの子供たち。私たちは彼ら全員を守る」と背水の陣で戦う覚悟を表明した。ゼレンスキー氏は祖国を捨て逃亡したというロシアのフェイクニュース攻撃に対抗するためだ。

兵站でつまずいたロシア軍

米シンクタンク、戦争研究所によると、ロシア軍は機械化部隊、空挺部隊の攻撃でキエフを包囲し、孤立させる初期の作戦に失敗。士気と兵站の問題に直面している。ウクライナ北部国境からの侵攻計画と作戦実行が不十分だったためとみられる。短期決戦でキエフを包囲し、「一番の敵」ゼレンスキー氏を跪かせたかったプーチン氏にとっては大誤算である。

KGB(旧ソ連国家保安委員会)出身のプーチン氏は「キエフには従うか、国を滅ぼすかの二択しかない。ゼレンスキー氏は東部紛争の停戦を目指すミンスク合意のすべてが気に入らないと言っている。好きであれ嫌いであれ、従うのがお前の義務。それが私の美学だ」と恫喝し、ウクライナが聞き入れないと自らミンクス合意を破棄してウクライナに全面侵攻した。

親露派分離主義者と交渉のテーブルに着くことを拒否してきたゼレンスキー氏は「ウクライナはプーチンの所有物ではない」と徹底抗戦の構えだ。クレムリンは東部の親露派支配地域を「トロイの木馬」としてウクライナに埋め込み、今後も同国に影響力を行使する思惑が透けて見えるからだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米当局、ホンダ車約140万台を新たに調査 エンジン

ワールド

米韓、同盟近代化巡り協議 首脳会談で=李大統領

ビジネス

日本郵便、米国向け郵便物を一部引き受け停止 関税対

ビジネス

低水準の中立金利、データが継続示唆=NY連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story