コラム

「しゃもじ」批判では分からない...岸田首相「電撃訪問」、ウクライナから見た「効果」

2023年04月01日(土)19時08分

岸田首相の訪問がG7首脳の中で一番遅かったのはやむを得ない事情がある。福島原発事故で原発再稼働が遅れ、エネルギー自給率が一時は6.3%(21年は13.4%まで回復)まで落ち込んだ日本はロシアでの資源開発事業を「エネルギー安全保障上、重要」と位置づける。北方領土問題も抱え、地政学上、中国とロシアを同時に敵に回すのは得策ではない。

G7で議長国を務める日本は旗幟を鮮明にする必要に迫られていた。中国の習近平国家主席が20日から3日間の日程でモスクワを訪問し、ウラジーミル・プーチン露大統領と会談。そんな中、岸田首相の訪問は平和国家・日本が西側陣営に属していることを世界中に示した。「必勝しゃもじ」云々より日本の首相としてウクライナを訪れたことに大きな意味がある。

日本は55億ドルの追加財政支援

独キール世界経済研究所によると、軍事・人道・金融支援は米国732億ユーロ(10兆5700億円)、欧州連合(EU)と加盟27カ国で549億ユーロ(7兆9200億円)、英国83億1000万ユーロ(1兆2000億円)。軍事支援ができない日本は10億5000万ユーロ(1500億円)と大きな差がついていた。

このため岸田首相は昨年来進めてきた16億ドル(2100億円)の人道・財政支援に加え、55億ドル(7300億円)の追加財政支援を行うことを決定した。電力、地雷処理、農業などさまざまな分野でウクライナを支えていくという。金額以上に岸田首相の行動が、ロシアに睨まれることを必要以上に恐れる日本企業の背中を後押しする効果に期待したい。

ジェフリー・ソネンフェルド米エール大経営大学院教授はロシアとビジネスを続ける企業のリストを公開している。それによると、これまで通りビジネスをしている日本企業は伊藤忠商事、三井物産、三菱重工、東京電力、みずほFG、NTTなど14社。様子見を続けているのは日本たばこ、日本製鉄、KDDI、武田薬品工業、豊田通商、三井住友FG、東芝など10社だ。

筆者と妻は車いすの補助具をウクライナに寄贈する人道支援を手伝った縁で知り合った国際慈善団体フューチャー・フォー・ウクライナ(FFU)から昨年10月「日本からウクライナに車いす500台を送ってもらえないか」というSOSを受けた。廃棄される車いすを整備して海外に寄贈してきた日本の4団体の全面的な協力ですでに295台を現地に送った。

4団体は希望の車いす、さくら車いすプロジェクト広島支所(CIL・かんなべ)、海外に子ども用車椅子を送る会、「飛んでけ!車いす」の会で、500台を超えて年内支援を継続する方向で協議を進めている。日本からポーランドまでの海上輸送は、第1便は日本郵船(NYK)、郵船ロジスティクス、第2便は商船三井、株式会社三協が無償で引き受けてくれた。

オールジャパンの取り組みは名付けて「Japan Wheelchair Project for Ukraine」。
https://japanwheelchairforukraine.org/

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルとの停戦交渉拒否 仲介国に表明=

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story