コラム

戦場では「笑っていた」兵士が、帰還後に自ら命を絶つ...戦争が残す深い「傷」

2022年04月02日(土)16時45分

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プリウエイテ・ギャレス・ルイス氏(筆者撮影)

「6月になって大隊の600人が夜襲をかけました。暗闇の中を前進しました。アッという間に伍長の1人が地雷を踏んで足が吹っ飛び、私たちの上に降り注ぎました。ロングドン山を攻略するにはアルゼンチン軍が仕掛けた地雷の中を進まなければならなかったのです。山を登り、塹壕を攻め落とし、敵兵を捕虜にして目標を達成しました」

「ロングドン山まで弾薬や水、食料など70キログラム近い装備を担いで80キロメートルも行軍しました。四輪駆動車ランドローバーと大型輸送用ヘリコプター、チヌーク3機が敵の攻撃で海に沈められました。輸送手段がないので、歩いて行くしかなかったんです。戦闘で23人が犠牲になりました。17歳が2人 。18歳が1人、その日は彼の誕生日でした」

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フォークランド紛争に従軍したルイス氏(本人提供)

「夜間照準器を備えたスナイパーの狙撃や迫撃砲にやられました。 ロングドン山を放置しておけば、アルゼンチン軍は高台から周囲を攻撃できました。あの山を取ったのは正しい作戦でした。アルゼンチン軍があの山から撤退していなかったら、戦争に負けていました。間違いなく全ての戦争に負けていました」

「恐怖とはおかしなものだ。私たちは笑っていた」

当時、20歳だったルイス氏は「恐怖は感じませんでした。恐怖とはおかしなものです。私たちは笑っていました」と言う。「アドレナリンですよ。目標を達成して生き延びる、まさにサバイバルでした。弾薬や食料が尽きても、生き延びるだけです。そうしなければ目標は達成できていませんでした。非常に危なかったと思います。勝敗は紙一重でした」

「空挺大隊の兵士はタフで有名です。さまざまな訓練を受けています。訓練に次ぐ訓練で鍛え抜かれているのです。厳しい訓練をすればするほど、戦争は容易になるという古い諺があります。だから、われわれはより厳しい訓練を受けました。それにわが大隊は絶対に屈しません。仮に弾薬が尽きても、死ぬまで戦うことを誓っていました」

不屈のエリート兵士を殺すのは戦場の銃弾や砲弾だけではない。フォークランド紛争では戦死者より多くの帰還兵が心的外傷後ストレス障害(PTSD)で自ら命を絶ったとルイス氏は打ち明けた。「これは一生つきまといます。忘れることはありません。ふとしたきっかけで必ず戻ってくるのです。それと一緒に生きる、生きていかなければならないんです」

「罪悪感、自ら命を絶った彼らのためにもっと何かできたんじゃないかという罪悪感が湧いてきます。そして迷路に入り込んでしまうのです」。大英帝国の威光を取り戻した戦争で255人の英兵士が死亡し、民間女性3人も犠牲になった(アルゼンチン軍の死者約650人)。あれから40年、イギリスでもフォークランド戦争を正しく理解しているのは成人のわずか4%に過ぎない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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