コラム

戦場では「笑っていた」兵士が、帰還後に自ら命を絶つ...戦争が残す深い「傷」

2022年04月02日(土)16時45分
フォークランドの地雷原

戦後30年の2012年に撮影されたフォークランド諸島の地雷原 Enrique Marcarian-REUTERS

<フォークランド紛争から40年。戦争を経験したことでPTSDに苦しみ、自殺した人の数は戦死者を上回った。当時を知る人々の言葉から考える戦争の後遺症>

[ロンドン発]英領フォークランド諸島にアルゼンチン軍が侵攻した日から4月2日(ロンドン時間)で40年が経つ。いまロシア軍がウクライナに侵攻する。自分たちの国土、家族、暮らしを守るのに理由は必要ない。しかし正当な戦争でも人的・物的被害、経済的損失だけでなく、人の心に癒えることのない傷が残る。武力は最後の手段であることをフォークランド紛争は改めて私たちに教えてくれる。

フォークランド諸島議会で議員を務めるレオナ・ロバーツさんは1982年4月にアルゼンチン軍が攻めてきた時、10歳だった。自分たちの国土を踏みにじられた戦争の記憶は今も鮮明に刻まれている。「私たちは小さな平和な国なのに突然、何千人もの兵士が目の前に現れました。恐ろしい体験でした。全部覚えています」

220402kmr_fkl02.jpg

レオナ・ロバーツさん(筆者撮影)

第一世代の祖先がフォークランド諸島で暮らすようになって彼女で6世代目。子供や孫も含めるとフォークランドのロバーツ家には9世代の系譜がある。

「侵攻が始まる前の晩、当時はまだテレビがなかったのでラジオで総督が『侵略艦隊がやって来る。明日非常に早い時間に上陸する』と告げました。6時間後にはアルゼンチン軍が上陸しました。最初は英海兵隊や地元の防衛隊が町を守りました。機関銃や小銃の音が鳴り響き、英海兵隊やアルゼンチン軍の兵士が叫んでいるのが聞こえました」

「しかし侵略を止めることはできませんでした。アルゼンチン軍の数が圧倒的に多かったからです。家の周辺で戦闘が行われている間、私たち家族は台所の食卓とひっくり返したソファーの下に隠れて夜を過ごしました。その時は、アルゼンチン軍が私たち民間人をどのように扱うか分かりませんでした」

「英機動部隊が大西洋を8千マイル(約1万3千キロメートル)南下して到着するまでの間、非常に静かな時間があり、とても緊迫した状況でした。英軍が上陸して戦闘が始まると、それはもう恐ろしいものでした。後で自由のために命を落とした人たちがいたことを知り、悔しくて胸が痛くなりました。最後の数日間は生きるか死ぬか分からない状態でした」と振り返る。

「伍長が地雷を踏んで足が吹っ飛んだ」

「わが祖国のために、そこで暮らす人々のためにフォークランド諸島を取り戻す」とマーガレット・サッチャー英首相はアメリカの反対を押し切って戦争を遂行する。まさに「鉄の女」の決断だった。元英陸軍第3空挺大隊のプリウエイテ・ギャレス・ルイス氏(60)はフォークランド諸島の首都スタンリーの港を見下ろすアルゼンチン軍の「最後の砦」となったロングドン山を巡る攻防に参加した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story