コラム

ロシアのウクライナ侵攻6つのシナリオ

2022年01月19日(水)22時42分

「プーチン氏の主な狙いはベラルーシ、ウクライナ、ジョージア(旧グルジア)がロシア以外の軍事、経済圏に絶対に入らないことを保証することだ。3カ国の外交・安全保障政策を最終的に調停するのはロシアだということだ」。プーチン氏はできる限りロシアの主権が及ぶ範囲を広げるとともに旧勢力圏を取り戻し、確定しようとしているのだ。

「スラブ三国同盟」の野望は可能か

米欧はウクライナの主権と領土保全を支持する立場で、これまでのロシアとの交渉は物別れに終わっている。そこでプーチン氏は賭け金を釣り上げてきたかたちだ。報告書は2024年のロシア大統領選までにウクライナ問題を片付けてしまいたいプーチン氏には6つの選択肢があると分析する。

(1) 交渉が成功すればウクライナ国境から部隊を撤退させるものの、ウクライナ東部の親露派勢力を支援し続ける。

(2) 通常部隊を一方的な「平和維持軍」としてウクライナ東部の親露派支配地域に送り込む。和平交渉が成功してキエフがミンスク合意の履行に合意するまで撤退させない。

(3) ウクライナを東西に分断するドニエプル川までを占領して交渉材料とするか、ロシア連邦に完全に組み込む。

(4) ドニエプル川の西側に加え、南部の港湾都市オデッサを含む沿岸部を占領、分離国家の沿ドニエストル共和国をつないでウクライナを黒海から切り離す。ウクライナ経済を成り立たないようにする。

(5) オデッサを含む南部の沿岸部を占領し、沿ドニエストル共和国とつなぎ、クリミアへの淡水供給を確保する。キエフなどでの大規模な戦闘は回避する。

(6)ウクライナ全土を掌握し、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人による新たなスラブ三国同盟の結成を発表する。

報告書は「ロシアは時計を持っているかもしれないが、米欧とウクライナは時間を持っている」と指摘する。ウクライナは1月が最も寒く、3月には凍てついた草原が雪解けして大地は良くて沼地、悪いと泥の海になる。3月に戦闘がずれ込む場合、戦車を擁する機械化部隊は悪名高い「ラスプティッツァ(雪解け)」に阻まれるだろう。

ウクライナ軍がロシア軍に抵抗する期間が長くなればなるほど、ウクライナ軍の自信は高まり、敵との戦い方に関する知識も蓄積される。米欧からの支援も広がり、武器供与が拡大する可能性もある。「クレムリンの支配者は皆、ロシアの王朝や政権を終わらせる最も近道の1つが戦争に負けることだと知っている」と報告書は分析する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ワールド

米最高裁への支持低下、中絶巡る判決で=ロイター/イ

ビジネス

米FTC、ウォルマート提訴 送金サービスの詐欺対策

ワールド

日米韓合同演習、「アジア版NATO」の前触れ=北朝

ビジネス

ゴールドマン、消費者部門で年間12億ドル超の損失見

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:広がるインフレ 世界経済危機

2022年7月 5日号(6/28発売)

急激なインフレ、食糧・エネルギー不足、米バブル崩壊...... 「舵取り役」なき世界経済はどこへ

人気ランキング

  • 1

    【モナコ王室】夫婦不仲説をシャルレーヌ公妃が一蹴、キスする姿も

  • 2

    食料品がこんなに高い!?インフレが止まらないNYの実態

  • 3

    メーガン妃「いじめ調査」結果はクロか? 「次は差別カードを切るはず」と王室作家

  • 4

    逆子の自然分娩「レクチャー映像」がトラウマ級

  • 5

    「中の人」の視点で終わった『東京2020オリンピック …

  • 6

    極超音速ミサイル「ツィルコン」はウクライナの戦況…

  • 7

    世界が見るウクライナ戦争の姿はフェイク? 「戦争PR…

  • 8

    アメリカで「転売ヤー」問題が少ない理由

  • 9

    メーガン妃はイギリスで、キャサリン妃との関係修復…

  • 10

    プーチン病気説の決定打?どう見ても怪しい動画

  • 1

    メーガン妃はイギリスで、キャサリン妃との関係修復を狙ったが失敗した(王室専門家)

  • 2

    アメリカで「転売ヤー」問題が少ない理由

  • 3

    メーガン妃「いじめ調査」結果はクロか? 「次は差別カードを切るはず」と王室作家

  • 4

    可愛くないはずがない...それでも女王が曾孫リリベッ…

  • 5

    逆子の自然分娩「レクチャー映像」がトラウマ級

  • 6

    【モナコ王室】夫婦不仲説をシャルレーヌ公妃が一蹴…

  • 7

    最も明るく、最も急速に成長するブラックホール発見…

  • 8

    【映像】夫婦と愛犬、すんでのところで猛追クマから…

  • 9

    冷遇されたヘンリー王子ついに「称号返上」を検討と…

  • 10

    プーチン「重病説」を再燃させる「最新動画」...脚は…

  • 1

    治験中のがん新療法、18人全員の腫瘍が6ヶ月で消失 専門医「前代未聞」

  • 2

    女性を踏み殺したゾウ、葬儀に現れ遺体を執拗に踏みつけ去る インド

  • 3

    遺体ばかりか負傷兵も置き去り──ロシア軍指揮官のプロ意識がさらに低下(米戦争研究所)

  • 4

    【映像】突進してくるゾウの赤ちゃんが「ちっとも怖…

  • 5

    英ルイ王子の「やんちゃ」ぶりで、キャサリン妃に「…

  • 6

    極超音速ミサイル「ツィルコン」はウクライナの戦況…

  • 7

    インド人初のK-POPスター誕生へ 4000人から選ばれた…

  • 8

    プーチン「重病説」を再燃させる「最新動画」...脚は…

  • 9

    中国側に「寝返った」ジャッキー・チェン、「父親が…

  • 10

    英ヘンリー王子夫妻、軽い扱いに「激怒」してイベン…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版ウェブエディター募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中