コラム

中国外交官がSNSの偽アカウントでプロパガンダを拡散する手法と規模が明らかに

2021年06月25日(金)14時36分
ロンドンの中国大使館

ロンドンの中国大使館。ここから多くの中国支持ツイートが行われていた /Hannah McKay-REUTERS

<香港民主化デモの2019年以降、中国外交官のSNSアカウント開設数は激増した>

[ロンドン発]中国の外交官がSNSの偽アカウント・ネットワークを使って中国にとって都合の良い言い分をイギリス社会にまき散らしていた実態が英オックスフォード大学民主主義とテクノロジープログラムの調査で明らかになった。香港民主派、新疆ウイグル自治区少数派の弾圧で国際的な批判が高まった2019年以降、中国は国営メディアによるプロパガンダ以上にソーシャルメディアを使った偽情報パブリック・ディプロマシーに力を入れている。

パブリック・ディプロマシーとは従来の政府対政府の外交と異なり、外国の国民や世論に直接働きかける外交活動。同プログラムのハンナ・ベイリー、マルセル・シュリーブス両研究員が保守党下院議員でつくる中国研究グループで24日、調査結果を報告した。「戦狼外交」の習近平国家主席登場で中国のパブリック・ディプロマシーは「平和的台頭」路線から転換し、中国の利益をよりストレートに、攻撃的な言葉で言い募るようになった。

kimura20210625115701.jpg
ウェビナーで報告するベイリー(右下)、シュリーブス(左上)両研究員(筆者がスクリーンショット)

世界金融危機で米欧型の民主主義と市場主義に限界を見た中国は09年以降、国営メディアのツイッターアカウントを通じて海外向けプロパガンダを展開。中国本土に容疑者を引き渡せる逃亡犯条例改正案が引き金になった19年の香港民主化デモ以降、中国外交官のツイッターアカウントが激増。126カ国に駐在する中国外交官270人がツイッターやフェイスブックのアカウントを開設していた。

kimura20210625115702.jpg

ツイッターやフェイスブックはそもそも中国では認められていない。両社はアカウントに「中国政府当局者」「中国国営メディア」というラベルを貼って利用者に注意を促している。しかし実際にはツイッターにアカウントを開設している189人の中国外交官のうち「中国政府当局者」とラベル付けされていたのはわずか14%の27人。フェイスブックにアカウントを持っていた84人には何のラベルも貼られていなかった。

国営メディアでラベルが貼られていた割合はツイッターで英語90%、その他の言語88%と外交官に比べ高くなっていたが、フェイスブックでは英語66%(同プログラムの報告書発表後に82%に改善)、その他の言語22%(同96%に改善)と徹底されていなかった。

スーパースプレッダーとして使われた偽アカウント

ベイリー研究員らが昨年6月から今年1月にかけ中国外交官のツイートを調べたところ、彼らの投稿をリツイートしていたアカウント全体の0.1%に当たる151アカウントがリツートの4分の1を占めていた。さらに1%に当たる1508アカウントをみるとリツイートの半分近くに達していた。同研究員は「ごく少数のスーパースプレッダーの偽アカウントが中国の外交官の言い分の拡散ツールになっていた」と分析する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人

ビジネス

日銀総裁、首相と意見交換 「政府と連絡し為替市場を

ワールド

ロシア、インドと地対空ミサイルS400の追加供給交

ワールド

中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去最大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story