コラム

中国外交官がSNSの偽アカウントでプロパガンダを拡散する手法と規模が明らかに

2021年06月25日(金)14時36分

いくら偽アカウントを使って拡散させようとしても実を伴わずムダのように見えるものの、SNSのアルゴリズムがアカウントのつながりが活発と認識すれば情報拡散が飛躍的に後押しされる可能性が増える。

中国外交官のアカウントに注目すると、偽情報を拡散させているとして閉鎖されたアカウントからのツイートを最も多くリツイートしていたのが劉暁明前駐英大使(現中国政府朝鮮半島事務特別代表)で50%。二番目に多かったのが駐英中国大使館で39%だった。香港の旧宗主国であるイギリスが中国外交官による偽情報パブリック・ディプロマシーの主戦場になっていたことがうかがえる。

劉前大使がツイッターのアカウントを開設したのは19年10月。フォロワーは12万3千人に達している。駐英中国大使館のフォロワーは2万9300人。劉前大使と駐英中国大使館は20年6月~今年2月、3070回ツイート。17万2千人が「いいね」し、4万5千人がリツイート、5万3千人が返信していた。継続的に反応していたのは英市民になりすました62のアカウントで、このうちすでに31アカウントが停止され、2アカウントが削除されていた。

残り29アカウントは同プログラムが調査結果をツイッターに知らせるとすぐに停止された。アカウントの活動は昨年、活発になり、劉前大使が離任した今年2月以降、低下していた。偽アカウントの開設時期やリツイートのタイミングが短時間に連続していたり、同じ言葉やフレーズを使っていたりしたという。

トロール部隊→中国外交官→なりすまし偽アカウント→市民の流れ

投稿テーマも香港民主派に好意的な英政府の批判、新疆ウイグル自治区における中国共産党の取り組みへの擁護、中国の地球温暖化対策への称賛、英BBC放送や、この報告が行われた中国研究グループなど対中強硬派下院議員への攻撃、中英関係の改善に集中していた。劉前大使のツイートは偽アカウントによって1万9千回もリツートされていた。偽アカウントがリツイートの45%を占め、ピーク時には75%にも達していた。

kimura20210625115703.jpg

偽情報を大量生産するトロール部隊の偽アカウント→中国外交官や中国国営メディアのアカウント→その国の市民になりすました偽アカウント→一般市民という流れが浮かび上がる。劉前大使は昨年9月、女性が足を使って男性に性行為をしている10秒間の成人向け映像を「いいね」する"事件"が起き、大使館が「一部の反中国勢力が大使のツイッターアカウントを悪質に攻撃し、卑劣な方法を使って国民を欺いた」と反論する一幕があった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story