コラム

ISISによる自殺攻撃の「産業化」進む バルセロナ暴走テロ

2017年08月18日(金)21時30分

テロ現場となったバルセロナのランブラス通りで警戒にあたる武装警官 Sergio Perez-REUTERS

<ベルリン、ストックホルム、パリ、バルセロナ......ヨーロッパで相次ぐ「自殺テロ」は、ISISがシリアやイラクの支配地域を失っても、巧みなテロの量産は続くという研究の正しさを裏付けている>

[ロンドン発]スペイン第2の都市バルセロナで17日午後、白色フィアットが猛スピードで観光客の人混みに突っ込んで13人が死亡、100人以上が負傷した。この暴走テロと前後して、同時多発テロの計画を浮き彫りにする動きが連続したので、まず地図とタイムラインで全体像を把握しておこう。

spainmap.jpg

16日夕、バルセロナから南200キロメートルの小さな町アルカナーで民家が爆発。1人死亡。警察は「民家の住民は爆発装置を準備していた」と発言、遊歩道ラ・ランブラの暴走テロとの関連を指摘

17日午後4時50分、バルセロナのラ・ランブラで白色フィアットが暴走、少なくとも13人が死亡、100人以上が負傷。実行犯の運転手は現場から逃走

午後6時半、バルセロナの北80キロメートルの街ビクで逃走用とみられる車両を警察が発見

午後7時半、バルセロナ郊外の検問で車が警察官に突っ込む。車内で1人死亡しているのが見つかるが、スペイン内相は警察に射殺されたとの報道と車暴走テロとの関連を否定

18日午前1時、バルセロナ南部のリゾート、カンブリスで警察が2度目の車暴走テロを阻止するも、警察官1人を含む7人が負傷。ラ・ランブラの車暴走テロと関連するテロ容疑者5人を射殺

過激化のハブ

警察は暴走テロに関連してテロ容疑で男2人を逮捕し、フィアットを運転していた男の行方を追っている。犯行に使われたフィアットを借りていたのは20代後半のモロッコ系男性だが、「運転免許証を弟に盗まれた」と事件との関連を否定している。

イラクやシリアでの支配地域を60%失い、収入も80%減らした過激派組織IS(イスラム国)のアマーク通信は「攻撃を実行したのはISの戦士」との声明を発表した。スペインでは情報機関や治安当局に1000人以上のイスラム過激派がリストアップされ、実際に200人の行動が監視されていたという。

バルセロナでは2008年に地下鉄を狙った自爆テロ計画でパキスタン人とインド人計14人が逮捕され、32人の犠牲者を出したベルギーの自爆テロでも今年4月、8人が逮捕されている。「バルセロナはサラフィストの説教師による過激化のハブ」(ロンドンの過激化・政治暴力研究国際センター所長ピーター・ノーマン)との指摘もある。

同センター上級研究員チャーリー・ウィンターは今年3月、「自殺攻撃を産業化したIS」という論文を発表している。

米メリーランド大学のグローバル・テロリズム・データベースをもとに調べたところ、2011年には世界全体で毎月平均17件の自殺攻撃が発生。その数は13年に52件、15年までに76件に増えている。ISだけに注目すると自殺攻撃の割合は他の過激派グループに比べてさらに高くなる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story