コラム

勢いづく「メルクロン」vs 落ち目のメイ イギリスはEUを離脱できないかもしれない

2017年07月13日(木)14時31分

選挙に大勝し欧州を危機から救ったマクロンとメルケルは「メルクロン」と呼ばれている John MACDOUGALL-REUTERS

[ロンドン発]3月のオランダ総選挙、5月のフランス大統領選、6月のイギリス総選挙を経て、欧州の風景は一変した。9月のドイツ総選挙を待つまでもなく、欧州連合(EU)は純化の方向で動いていくのは間違いない。イギリスではハードブレグジット(単一市場と関税同盟からも離脱)路線を掲げていた首相テリーザ・メイがずっこけ、「本当にEUから離脱できるの?」という声まで上がり始めた。

独与党の支持率は急回復

欧州の政治は、指導者のパーソナリティーに大きく左右される。まず、ドイツの首相アンゲラ・メルケル、フランスの大統領エマニュエル・マクロン、そしてメイの順にそれぞれが置かれている状況を見てみよう。

【メルケル】7月7~8日ハンブルクで開かれた20カ国・地域(G 20)首脳会議(サミット)は、搾取、社会不安、格差、そして戦争と環境破壊に抗議する反グローバル主義者たちが暴徒化し、大荒れとなった。

保護主義を唱え、温暖化対策を進めるパリ協定からも離脱するアメリカの大統領ドナルド・トランプとの相性は最悪だ。「G19+1」と表現されるほど、アメリカの孤立は鮮明になった。

【参考記事】「トランプこそ西側の脅威」--豪記者の辛辣リポートが共感呼ぶ
【参考記事】G20で孤立したのはトランプだけでなくアメリカ全体

ハンブルク首脳宣言には、トランプの意向を無視できず「正当な貿易防衛制度の役割を認識する」と書き込まれ、パリ協定をめぐっては分裂、「戦略核保有国」に突き進む北朝鮮の核・ミサイル開発に対する非難は盛り込まれなかった。アメリカと、EU、中国・ロシアの思惑は完全に対立し、G20は機能不全を露呈した。

ホスト国としてメルケルは落第点だが、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツは「トランプ政権の保護主義は大きな問題」「アフリカ支援におけるメルケルのリーダーシップは尊敬に値する」とトランプをこき下ろし、メルケルを持ち上げた。グローバル企業にとって今やメルケルは自由貿易と温暖化対策の砦だ。

ドイツ国内では難民の流入にブレーキがかかり、アメリカにおもねらずEUを軸に独自路線を打ち出したことから、メルケルの支持基盤であるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の支持率は急回復、最大野党・社会民主党(SPD)を再び大きく引き離している。「政界一寸先は闇」とは言うものの、9月の総選挙でメルケルが4選を果たすのは確実な情勢だ。

【マクロン】5月の大統領選に続いて、6月の国民議会(下院)選でも完勝。マクロンを支持する新党「共和国前進」と中道「民主運動」が定数577のうち6割の350議席を占めた。しかし不動産や架空雇用をめぐる疑惑でいきなり法相、国防相など閣僚4人が辞任した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story