コラム

平和の調べは届くのか アメリカが欧州に突きつけた最後通牒

2017年03月07日(火)10時30分

日本としては日米同盟と北大西洋条約機構(NATO)を連携させ、世界の平和と安定の礎にしたいところだが、石井氏は「イギリスの欧州連合(EU)離脱を懸念している。欧州が一体となって外向きの外交・安保政策を維持することが重要だ」と指摘した。安倍首相とトランプは日米同盟の揺るぎない結束を世界に示した。

しかしNATOで結ばれた大西洋関係は大きく揺らいでいる。欧州に関してトランプはEUを離脱するイギリスのメイ首相とは手を繋いで共同記者会見に現れたが、これまでに何度もNATOを「時代遅れ」、EUを「ドイツの乗り物」とこき下ろしてきた。

トランプを支えるペンス米副大統領や「狂犬」の異名を持つマティス国防長官はミュンヘンでの安全保障会議やNATO国防相理事会で「NATOへの完全な支持と揺るぎのない関与」と表明したが、対GDP比2%の国防支出を達成しなければ「支援を和らげる」と最後通牒を突きつけた。無条件だった欧州の安全保障は今や条件付きになったわけだ。

ドイツに対する苛立ち

マティスはNATOの欧州加盟国の国防相を前にしてこう言い放った。「アメリカの納税者は西洋の価値を守るために過分な負担を背負い続けることをもはや許さないだろう。アメリカはあなたたちの子供の未来のために、あなたたちがする以上のことはできない」。アメリカは欧州加盟国を支援できても、国防までは肩代わりできないということだ。

プーチンの拡張主義に怯える欧州には脅しに聞こえたに違いない。2%目標を無視するNATOの欧州加盟国にアメリカがフラストレーションをぶちまけたのはトランプ政権が初めてではない。11年、オバマ政権下のゲーツ国防長官(当時)は「欧州が国防費を削減したことがアメリカの納税者の負担を増している」と公然と批判した。

kimura20170306110302.jpg

NATOによるとGDP2%目標(上グラフ)をクリアしたのは、15年がアメリカ、ギリシャ、ポーランド、イギリス、エストニアの5カ国、翌16年(推定値)も同じ顔触れだった。16年のフランスは1.78%、ドイツに至っては1.19%に過ぎなかった。アメリカのフラストレーションは、軍事貢献に顔を背け、ひたすら貿易黒字を積み上げるドイツに向けられていると言っても過言ではない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、日本の核兵器への野心「徹底抑止」すべき=K

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

アングル:トランプ政権で職を去った元米政府職員、「

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story