コラム

平和の調べは届くのか アメリカが欧州に突きつけた最後通牒

2017年03月07日(火)10時30分

ロシアの脅威に対抗し、スウェーデンは来年から徴兵制を復活する(3月2日)Fabrizio Bensch-REUTERS

<トランプ米政権は防衛負担増の圧力を、日本ではなく欧州に向けた。軍事費をGDPの2%に引き上げなければ安全は保障しないという。拡張主義を強めるロシアを前に、NATOが空中分解しかねない>

キングス・カレッジ・ロンドンのカレッジチャペルで土曜日の夜、「戦争と日本」と題する演奏会が開かれた。ロンドンを拠点に活動する新進気鋭のバイオリニスト、植田リサさん(30)とピアニスト、ダニエレ・リナルド氏(33)のデュオで、戦争と平和がいかに日本を形作ってきたかを描き出した。

kimura20170306110301.jpg

第一次大戦中に作曲されたドビュッシーの「バイオリン・ソナタ」や、第一次大戦直前に書かれたストラヴィンスキーの「Three Japanese Lyrics(3つの日本の叙情詩)」などがリサさんの表現豊かな技術で演奏された。リサさんは「同じ作曲家の作品でも戦争の前と後に書かれたものでは全然違います。そのコントラストを出したかった」という。

オバマが「世界の警察官」を返上

今の時代は作曲家や音楽にどんな影響を与えているのだろう。世界は本当にきな臭くなってきた。20世紀、2つの世界大戦、冷戦の終結を経て、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマ氏が指摘した「歴史の終わり」が訪れ、大きな戦争は永遠になくなるとみられていた。しかしアフガニスタン、イラクの2つの戦争と世界金融危機でアメリカが疲弊したことから、時代は一変した。

オバマ前米大統領がシリアへの軍事介入をめぐり「世界の警察官」役を返上したことを契機に、ロシアのプーチン大統領はウクライナのクリミア併合を強行、ウクライナ東部の親露派武装勢力と連携して紛争を引き起こした。アサド政権を支えるためシリアにも軍事介入した。

中国は南シナ海の軍事要塞化を進め、東シナ海では沖縄県・尖閣諸島周辺で活動を活発化させるなど、強引な海洋進出を企てている。中国の海洋進出を抑えることが最優先課題となる太平洋では、安倍晋三首相が日米首脳会談でアメリカのトランプ大統領を支える姿勢を鮮明にし、固い握手を交わした。尖閣に日米安全保障条約第5条が適用されることも早々と確認された。

インドネシア大使に起用された石井正文・前ベルギー大使は英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)で講演し「2030年以降、中国の国内総生産(GDP)はアメリカを追い越す。中・長期的にアメリカの絶対的な優位性が低下するのは避けられない」「そのため日米同盟を基軸に防衛協力を広げ、東アジアの安全保障を強化している。その方針はトランプ政権になっても不変だ」と話した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、4月は49.4 1年4カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story