コラム

異常な人口減少で韓国は「消滅」する?

2021年07月09日(金)16時11分
赤ちゃんと家族

3人目の子どもを迎えて幸せそうなソウルの家族(2018年)。これからは少数派になるかもしれない Kim Hong-Ji-REUTERS

<出生率が「1」を下回るのは戦争などよほどの異常事態といわれるが、韓国ではその「異常事態」が3年続いて回復の兆しが見えない>

韓国の合計特殊出生率(以下、出生率)の低下が止まらない。韓国の2020年の出生率は0.84(暫定)で、2019年の0.92を大きく下回る見通しだ。 出生率が1を下回るのは3年連続のことで、0.84は歴代最低値だ。韓国の出生率はOECD平均1.61(2019年)を大きく下回り、OECD加盟国の中で最も低い。

■韓国における合計特殊出生率
kimchart2.png
出所)統計庁「人口動向調査」より筆者作成

■OECD加盟国の合計特殊出生率(2019年)
kimchart3.png
出所)OECD Dataより筆者作成

2020年に生まれた子どもの数は27.2万人で30万人を切ったのは初めてである。2020年の大学の入学定員が約47.3万人であることを考えると(4年制大学:約31.0万人、短大:約16.3万人)、生まれた子どもの数がいかに少ないかが分かる。このままだと今後多くの大学が廃校に追い込まれる可能性が高い。

地域別にはソウルが0.64で最も低く、釜山(0.75)、仁川(0.81)、大邱(0.81)、光州(0.81)のような大都市の出生率が全国平均を下回っている。一方、韓国で出生率が最も高い世宗市の出生率も2019年の1.47から2020年には1.28まで低下するなど全ての地域(第一級行政区画※)における出生率が昨年を下回った。

※韓国には17の第一級行政区画(1特別市・6広域市・1特別自治市・8道・1特別自治道)がある。

問題は今年と来年の出生率がさらに低下する可能性が高いことだ。新型コロナウイルスの影響で婚姻件数が大きく減少したからだ。韓国統計庁が発表した2020年の婚姻件数は約21.3万件で2019年の23.9万件を下回り、統計を発表した以降最も低い数値を記録した。さらに、5月に発表された2021年第1四半期の婚姻件数は約4.8万件で前年同期より1万264件(−17.6%)減少した。

■韓国における婚姻件数
kimchart1.png
出所)統計庁「人口動向調査」より筆者作成

従って、今年と来年の出生率の回復を期待することは難しい。専門家の中には今年の出生率が0.7台まで、そして来年の出生率が0.6台までに低下すると予想する人もいる。

韓国政府は少子化対策として2006年から総額21兆円を投入してきたが成果が出ていない。その理由の一つは支援策の多くが結婚後の支援に偏っているからだ。

韓国ではまだ儒教的な考えが根強く残っており、結婚してから出産するケースが多い。しかしながら、多くの若者は安定的な仕事を得ておらず、結婚という「贅沢」を選択できない立場に置かれている。2021年5月現在の20歳~29歳の若者の失業率は9.3%で全体失業率4.0%より2倍以上高く、大卒者の正規職就業率も低い(参考2015年は52.5%、韓国職業能力開発院)。

韓国で若者の失業率が高い理由としては、大学進学者が多く卒業後に需要と供給のミスマッチが発生していることと、サムスン電子、現代自動車などの大企業と中小企業の間の賃金格差が大きいことが挙げられる。そこで、多くの若者は就職浪人をしてまで大企業に入ろうとするが、選択されるのは一部の人に過ぎない。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとハマス、合意違反と非難応酬 ラファ検問

ビジネス

ABB、AIデータセンター向け事業好調 米新規受注

ワールド

ロシア、中印の公式声明を重視 トランプ氏の「原油購

ワールド

仏首相への不信任案否決、年金改革凍結で政権維持
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story