コラム

日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(4)軽症者の隔離・管理対策:「生活治療センター」

2020年05月11日(月)10時55分

屋外で、社会的距離を取りながら行われた就職試験(4月25日、ソウル) Kim Hong-Ji-REUTERS

<自宅待機中だった軽症者が自宅で死亡する悲劇は韓国でも起こった。そこで無症状者や軽症者専用のハイテク「生活治療センター」を一気呵成に立ち上げ、医療崩壊も防いだ。武漢の経験から学んだことだ。今度は、日本が学ぶ番だ>

今回は韓国の新型コロナウイルス対策のうち、無症状や軽症の感染者対策の一環として設立された「生活治療センター」について紹介したい。

韓国の南部・大邱市では2月下旬から、新興宗教団体「新天地イエス教」の信者を中心に新型コロナウイルスの感染者が急増した。2月18日まで31人であった感染者数は、2月24日には833人まで増加したため病床が足りず、韓国政府は軽症者を自宅で待機させる措置を取った。しかしながら、自宅待機途中に病状が悪化し、死亡するケースが発生し、家族への二次感染も懸念された。このまま放置すると死亡者や感染者が増え、最悪の場合には医療崩壊に繋がる恐れがあった。そこで韓国政府は、軽症者が病床を占め重症者が入院できないことを防ぎ、自宅隔離中の死亡や家庭内感染もなくすために、軽症者を一つの施設に集めて隔離・管理する選択をした。それが「生活治療センター」である。

武漢の状況分析から発想

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生活治療センター「大邱1」の庭で患者のために演奏する学生ボランティア(4月27日、大邱) Woo Tae-Ug 毎日新聞(韓国)

「生活治療センター」の創設には、韓国より先に感染が広がった中国のデータが参考になった。中国の武漢を中心とする感染者データから、新型コロナウイルスの感染者の81%は軽症であり、重症者と致命率が高い患者はそれぞれ14%と5%に過ぎないことが分かったのだ。韓国政府は、患者の治療に専念できる医療従事者の数が限られていることを考慮すると、すべての感染者を入院させ治療するよりは、軽症者は管理が可能な施設に隔離して管理し、入院治療が必要な重症者に優先的に病床を割り当て、集中的に治療することが効果的で医療崩壊を防ぐ方法であることを悟った。

韓国政府は3月3日にクラスターが発生した大邱市に位置する「中央教育研究院」を最初の「生活治療センター」(センター名は「大邱1」)として稼働した。感染者が軽症か重症かの判断は医療従事者で構成された「市・都別患者管理班(重症度分類チーム)」が担当した。

「生活治療センター:大邱1」の定員は160人で、慶北大学の医師や看護師等17人の医療従事者(医師4人、看護師7人、看護助手6人)が配属された。医療従事者は、24時間常住しながら患者の診療や検体採収、電話相談や患者の健康状態のモニタリングを行った。

■軽症者は「生活治療センター」で隔離、重症者は「病院」で治療
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「生活治療センター:大邱1」には医療従事者以外にも、保健福祉部や行政安全部、大邱市から公務員が派遣され、患者の入院・退院などの行政業務を担当した。また、国防部から派遣された軍人は防疫作業や食事の配膳、物品の運搬等の業務を、警察は警備の業務等を担当した。このように業務を分担することにより医療従事者の負担を少しでも軽くすることが可能であった。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

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