コラム

日本における外国人労働者受け入れの現状と今後の課題

2020年01月09日(木)11時55分

特定技能と技能実習の違い

図表4は、1993年に導入された技能実習と2019年4月から導入された特定技能の違いについて説明している。両制度の最も大きな違いとしては在留資格の目的が挙げられる。厚生労働省は、技能実習の目的を「我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力すること」だと定義している。この定義によると、技能実習の目的は労働ではなく国際貢献であることが分かる。しかしながら、公益財団法人国際研究協力機構(JITCO)の「平成28年度技能実習実施機関従業員規模別構成比(団体管理型)」によると、外国人技能実習生を受け入れている企業の従業員数は、10人未満が50.4%で最も多く、次いで10~19人が15.6%、20~49人が15.3%の順であり、100人以上の企業は9.8%(100~299人は6.8%、300人以上は3.0%)に過ぎない。この結果をみると、技能実習は国際貢献よりは中小零細企業における人手不足を解消するために利用されていることがうかがえる。一方、特定技能の目的は人手不足を解消するための労働力の獲得が主になる。技能実習生とは異なり、即戦力として現場で活躍することが期待されている。

在留資格は技能実習(団体管理型)制度が技能実習1号・2号・3号になっていることに比べて、特定技能は、特定技能1号・2号となる。特定技能2号は2024年4月以降に制度適用が開始される。在留期間は、技能実習では、技能実習1号は1年以内、技能実習2号は2年以内、技能実習3号は2年以内と定められている(合計で最長5年)。一方、特定技能1号では通算5年間とされている。特定技能2号の場合は、特に在留期間の制限が設けられていない。

受け入れ対象国は、技能実習の場合15ヶ国(インド、インドネシア、ウズベキスタン、カンボジア、スリランカ、タイ、中国、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、ベトナム、ペルー、ミャンマー、モンゴル、ラオス)と限られていることに対して、特定技能は在留資格が就労なので、特に外国人の国籍は問わない。したがって、政府は、在留資格「特定技能1号」を取得するために必要な日本語試験の対象国を、現在のベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジア、ネパール、モンゴルの計9カ国から、今後は順次拡大していく方針である。

Nissei200106_4.jpg

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇、聖職者による性的虐待被害者と初めて面会

ワールド

インドネシア大統領就任1年、学生が無料給食制度廃止

ワールド

財務相に片山さつき氏起用へ、高市氏推薦人=報道

ワールド

アングル:米ロ首脳会談、EU加盟国ハンガリーで開催
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story