コラム

文在寅支持層が女子アイスホッケー合同チームに反発する理由

2018年02月05日(月)19時30分

女子アイスホッケーチームを訪れた文在寅大統領 Yonhap via REUTERS

「まるで平昌(ピョンチャン)五輪ではなく、平壌(ピョンヤン)五輪」
と言ったのは韓国保守派・自由韓国党の国会議員であるナ・ギョンウォンである。

2月9日から開催される平昌冬季五輪で予定されている、南北朝鮮の合同入場ほか、北朝鮮応援団の派遣、女子アイスホッケーの南北合同チームの結成などを皮肉った言葉だ。

政府の対応に20-30代が反発

進歩政党による政権が北朝鮮に対して融和政策を展開すると、保守野党が「北朝鮮に服従している」などと揶揄するのは常につきものだ。しかし今回はいつもとは違った世論の反応が見られている。平昌五輪への北朝鮮参加に対する政府の対応に、文在寅大統領の支持層である20-30代が反発しているというのだ。

韓国ギャラップ社の世論調査(2月2日)によると、女子アイスホッケーの合同チーム結成について、肯定する回答は40%、否定が50%、20代に絞ると62%が否定的な意見だった。

この問題の背景を理解するにおいて、まず知っておくべきは、なぜ南北融和が必要なのかという問題である。

言うまでもないが、朝鮮半島は現在も休戦状態にある。南北の離散家族は200万人以上とされており、南北間では自由な往来はおろか、電話や手紙のやりとりも不可能だ。ちなみに日本と北朝鮮でさえ、電話や手紙のやり取りは連絡先さえ知っていれば基本的に可能だ。

休戦ラインを抱えるため南北は莫大な軍事・防衛のための予算を費やし、徴兵制によって未来ある青年たちが軍隊での生活を余儀なくされている。政治・経済・社会的損失は想像に易いだろう。

文在寅が北朝鮮に対して対話路線であることは、周知の事実であり、大統領選で彼に一票投じた人たちが知らなかった話ではない。では、なぜ彼らは反発したのだろうか。

女子アイスホッケーの合同チームに反発

若い層が反発しているのは、女子アイスホッケーの合同チームが組まれることについてである。ちなみに前出の世論調査で、南北の合同入場に関しては肯定が53%否定が39%で肯定派が多く、20-30代でもやはり肯定する回答が多かった(肯定50%、否定37%)。つまり五輪の場で、南北平和をアピールすることに対して反発するわけではないのだ。

開催まで一カ月足らずの時期に合同チームが決まったため、選手の立場としてはチームワークを培ってきたこれまでの苦労が損なわれるだけでなく、出場選手も減らされてしまう。特例で南北チームに関してはベンチ入りする人数を増やしたが、これもスポーツにおけるフェア精神に欠けるのではないかという指摘もある。

つまりスポーツ選手が優先されるべき五輪の場で、文政権は政治を優先しているのではないかという疑問が生じているのだ。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英賃金上昇率、22年5月以来の低水準 雇用市場に安

ワールド

インドネシア大統領、トランプ氏に「エリックに会える

ビジネス

イオン、3―8月期純利益は9.1%増 通期見通し据

ビジネス

アサヒGHD、決算発表を延期 サイバー攻撃によるシ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 9
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 10
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story