コラム

文在寅は「反日」「親北」なのか

2017年05月31日(水)07時00分

文在寅(ムン・ジェイン)大統領と首席秘書官 Yonhap via REUTERS

<文在寅(ムン・ジェイン)政権への歓迎ムードに沸いている韓国。日本の報道では、「反日」「親北」という論調が多いが、果たしてそうなのか>

文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足して、およそ3週間が経った。政権支持率は87%(5月19日韓国ギャラップ)と史上最高値を記録し、韓国内は新政権への歓迎ムードに沸いている。

一方、日本の報道を見ると文政権発足に対して、必ずしも歓迎しているようには見えない。「反日」「親北」という表現を使った、否定的な論調も目立つ。

文在寅政権が「反日」とされる理由の一つには、慰安婦問題に関する日韓合意に積極的とは言えない姿勢をみせていることが含まれるだろう。

しかし文政権は日韓合意について「再交渉する」という表現は使っても、「破棄する」「白紙にする」とはしていない。

韓国内でこの合意は、朴槿恵政権によって唐突に決められた印象が強い。というのは、国民に対してそのプロセスの説明が十分でなかったし、何よりも被害者に対して、事前に何かしらの説明や意思確認がなかったからだ。さらに一連のスキャンダルによって、黒幕によって国政を左右された実態が明らかになり、合意に至るまでの朴政権の判断への不信感はさらに強まっている。

政権交代を成し得た文政権にとって、この国民の不信感を払拭する作業は避けられない。かと言って、日本との合意を一方的に白紙に戻すことはできない。そのため解釈の幅のある「再交渉」という言葉を使っているのだろう。

保守政権なら親日、というわけでもない

就任直後の電話会談では日本の安倍首相に、「韓国国民の大多数が情緒的に合意を受け入れることができないでいる」とし、「努力する」とした少女像の移転については「民間の領域で起きた問題を政府が解決するのには限界があり、時間が必要だ」と伝えている。29日にも、韓国政府は「我が国民の大多数が情緒的に受け入れられていない現実を認めながら、韓日両国が共に努力し、問題を賢明に克服することを望む」と発表している。

これらの内容を見ても、合意そのものに難を示していると言うよりは、韓国世論の同意を得るのに時間がかかることについて、日本側から理解を得たいという立場に力点が置かれているように思われる。

そもそも文在寅がこれまで、日本に対して敵意を示すような言葉を、公の場で吐いたことはあるのだろうか。

一方、保守政権なら親日なのかと言われると、一概には言えない。日韓関係が急速に悪化したのは2012年8月、李明博元大統領による竹島・独島上陸がきっかけだ。その翌年に朴槿恵政権が発足した後も日韓首脳会談は開かれず、およそ3年後の15年11月に会談が開かれ、その翌月に日韓合意が突如、発表されたのだ。また、長年、禁止されてきた日本の大衆文化が解禁されたのは、進歩政権である金大中時代だ。

文政権に限らず、一政府の政策や外交路線を短絡的に「白か黒か」で決めるのは無理があるだろう。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、台湾への7億ドル相当の防空ミサイルシステム売却

ワールド

日中局長協議、反論し適切な対応強く求めた=官房長官

ワールド

マスク氏、ホワイトハウス夕食会に出席 トランプ氏と

ビジネス

米エクソン、ルクオイルの海外資産買収を検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story