コラム

文在寅支持層が女子アイスホッケー合同チームに反発する理由

2018年02月05日(月)19時30分

女子アイスホッケー韓国代表選手らもテレビ局SBSの取材に対して「努力が水の泡になる」「北朝鮮の選手もいまさら新しいチームを結成することについて快く思わないのではないか」などと率直にコメントしている。

ではなぜ文政権と支持層の間に溝が生じたのか。

ここには韓国社会における世代間の認識の差が背景にある。

若い世代には「南北和解は最優先課題」となりにくい

現在、文政権を支えているのは90年代に「386世代」と呼ばれた「586世代(現在50代で80年代に学生運動を経験し、60年代生まれの世代)」だ。

1980年代、韓国は全斗煥大統領による軍事独裁政権下にあった。徹底した言論・思想統制の下、南北統一について語ることは思想犯として扱われることだった。その全政権に終焉をもたらしたのが1987年の「6月民主化抗争」だ。

大学生たちは軍事独裁政権の打倒をスローガンに、南北統一のタブーを打ち破ろうとした。このときデモの先頭に立ち運動を率いてきたリーダーたちが、現在、文政権の中心にいるのだ。韓国の80年代を経験している彼らにとっては、南北関係改善は平和そのものであり、否定される余地のない問題ともいえるのだ。

現在の20-30代にとっては、軍事独裁政権下の80年代よりも、金大中元大統領と金正日総書記による南北首脳会談後の2000年代の南北関係がよりリアルな記憶だ。つまりある程度の南北関係の進展を目にしてきた世代にとって「南北和解は最優先課題」とはなりにくいのだ。

文在寅大統領は反省の姿勢をコメント

もう一つ、理由がある。この世代は「政治的な大義」よりも「個の尊重」を重視する、一歩進んだ感覚が身についている世代であるという点だ。南北合同の行進は理解できても、長い期間、五輪に向けて汗を流してきた選手を犠牲にしてもいいのかという疑問が自然に生じるのだ。こういった反応について、文政権の中枢部にいる人々や、586世代に当たるメディア記者は当惑する様子も見せていた。

結局、文在寅大統領は反応を重く受け止めたのか、1月30日、大統領府で大臣、長官らを前に「単一チームを組むことで南北関係を改善し、平和な五輪のためにも良いと思ったのだが、選手たちの立場を事前にきちんと受け止めることができてなかった」と反省の姿勢をコメントした。これが功をなしたのか、一時下降気味だった支持率も回復している。

今回の平昌五輪問題を通じた、若い世代の「何のための南北融和なのか」という問いかけに、文政権がどう答えるのかによって、今後の韓国における民主主義の熟度が左右されるだろう。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

銅価格、1万2000ドルの大台を突破し最高値 今年

ワールド

国連安保理、ベネズエラ情勢巡り緊急会合 米「最大限

ワールド

ローマ教皇、ロシアのクリスマス停戦拒否に「大きな悲

ワールド

赤沢経産相、米商務長官らと対米投資巡りオンライン協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story