コラム

日本に迫る「極度の人手不足」問題...「低賃金」を放置する業界が直面するリスクとは

2023年03月07日(火)20時17分
日本のタクシー

MBBIRDY/ISTOCK

<日本の産業界はこれまで人手不足の問題に対して、外国人労働者の受け入れという安易な方法で解決を図ってきた>

全国的に人手不足が深刻な状況となっている。このままでは「コロナ後」の消費拡大をうまく成長に結び付けられない可能性がある。

昨年後半以降、国内でも物価上昇が顕著となっていることから、パートやアルバイトの時給を引き上げる動きが活発化している。企業が時給引き上げに前向きなのは、物価高への対応や政府からの賃上げ要請といった背景もあるが、最も大きいのは、相応の賃金を提示しないとパートやアルバイトを確保できないからである。

全国にスーパーなどを展開するイオンは、3月以降パート従業員40万人の時給を平均7%上げる方針を表明した。賃金を上げれば利益は減るが、人員を確保しないと業務が回らないため、背に腹は代えられない状況だ。

パートやアルバイトの場合、終身雇用ではないため、時給についてある程度、弾力的に運用できる。だが正社員の場合はそうはいかない事情があり、正社員の賃金を上げられず業務に支障が出るという事例が増えている。

せっかくのインバウンド需要の回復を生かせない

コロナ収束が見え始めていることから、徐々にインバウンド需要が回復しつつある。宿泊業界では人手不足が深刻となっているが、増える訪日外国人に対応できず、業務がパンクする事態が頻発している。タクシー業界も乗務員不足から十分な数の実車を出せないという状況が続く。空港では手荷物検査の人員不足が顕著だが、検査を請け負う事業者が人を集めることができず、検査体制が限界ギリギリとなっているところも多い。

コロナ危機をきっかけにベテランを中心に多くの従業員が職場を離れ、その後、同じ職場に戻ってこないことが人手不足の最大の要因である。

日本の産業界は人手不足の問題に対して、外国人労働者を受け入れるという安易な方法で解決を図ってきた。だが昨年後半に進んだ円安によって、諸外国から見た日本の賃金は大幅に低下しており、もはや日本は出稼ぎに行く国として魅力的な存在ではなくなっている。加えてコロナ危機で一時的に職を失ったり、職場から離れた人は、休職が自らのキャリアを見つめ直すきっかけとなり、同じ条件では職場に戻らないケースも多いと言われる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 5
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 6
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 7
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 8
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    戦車「爆破」の瞬間も...ロシア軍格納庫を襲うドロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story