コラム

インフレは、国民にとって「事実上の増税」になると理解していますか?

2022年08月24日(水)17時25分
インフレ(イメージ)

BET_NOIRE/ISTOCK

<インフレでは人々の預金と国の借金の「価値」がともに目減りするため、増税と全く同じ効果をもたらすが、多くの国民はこの仕組みを見逃している>

岸田文雄首相が小麦の政府売り渡し価格を据え置くよう指示するなど、インフレ対策に躍起になっている。賃金が上がらないなかでの物価高騰は生活を直撃する現実が明らかとなり、多くの国民がインフレの怖さについて認識するようになった。だが、インフレというのは「事実上の増税」であるという、さらに厳しい現実については、まだ多くの人がピンときていないのではないだろうか。

通常、税金というのは所得に対して課税したり(所得税)、消費に対して課税する(消費税)というやり方で徴収が行われる。税金を取られることを喜ぶ人はいないので、当然のことながら増税に対する反発の声は大きい。だがインフレによる継続的な物価上昇は、増税と全く同じ効果をもたらすものの、その仕組みについてはあまり知られていない。

もしインフレが進み、10年間で物価が2倍に上昇したと仮定すると、今年100万円だった自動車は10年後には200万円になる。だが、インフレが進んだからといって銀行の預金額は変化しないので、100万円の預金は10年後も100万円のままである(利子分は除く)。今なら100万円の預金で自動車を1台購入できるが、10年後には2倍のお金を出さないと自動車は購入できなくなる。

要するにインフレ時には、現金や預金を持っていると損してしまうという話だが、逆にトクをするのが借金である。今、100万円を借りて、10年後に返済する場合、物価が2倍になったとしても、返済する額は100万円のままである。

インフレが起きれば政府の借金は実質的に減少する

今、100万円を借りて、物価上昇に合わせて価値が上がる資産を購入すれば、お金を借りた人は100万円だけ返せばよいので、大きな利益を得ることができる。そして、社会において最も高額な借金を抱えた経済主体の1つが政府である。

現在、日本政府は1000兆円を超える借金を抱えており、お金の原資は国民の預金であるが、もしインフレによって物価が2倍になれば、政府の借金は実質的に半減する。この時、国民の預金も価値が半減しているので、事実上、国民の預金から多額の税金を徴収し、政府の借金返済に充てたのと全く同じ効果が得られる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

財新・中国製造業PMI、6月は50回復 新規受注増

ビジネス

マクロスコープ:賃金の地域格差「雪だるま式」、トラ

ビジネス

25年路線価は2.7%上昇、4年連続プラス 景気回

ビジネス

元、対通貨バスケットで4年半ぶり安値 基準値は11
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story