コラム

経産省、続発するスキャンダルより大きな問題は「産業政策の失敗続き」

2021年07月14日(水)18時16分
経済産業省

NAOKI NISHIMURA/AFLO

<職員によるコロナ支援金制度の悪用や、東芝の株主総会への介入疑惑......。だが最大の問題は時代に合わない産業政策だ>

経済産業省のキャリア職員2名が、コロナ対策の支援金制度を悪用して逮捕されるという信じ難い事件が発生した。同省をめぐっては、東芝の株主総会への不正介入疑惑など、行政運営の透明性が問われていた。しかも同省の産業政策はこのところ失策が続いており、一部からは組織的な問題も指摘されている。場合によっては省の存在意義すら問われかねない状況といってよいだろう。

経済産業省(旧通商産業省)は日本の産業政策を一手に担ってきた官庁だが、近年、失策ばかりが続いている。最も大きいのは半導体産業に対するずさんな支援策だろう。

かつて世界シェアトップを誇っていた日本の半導体産業は1990年代以降、急速に競争力を失い、後発の韓国勢や台湾勢に完敗した。経産省は「日の丸半導体復活」という勇ましい目標を掲げ、エルピーダメモリやルネサスエレクトロニクス、ジャパンディスプレイなど、国策半導体会社、あるいはそれに準じる合弁企業の設立を促し、政府系ファンドなどを通じて多額の公費を投入してきた。

だがエルピーダは倒産。ルネサスも一時、経営危機に直面し、ジャパンディスプレイは現時点でも巨額赤字を垂れ流している状況だ。

高度成長は本当に政策のおかげ?

加えて同省には、経営危機に陥った東芝を支援するため、株主総会に不正介入した疑いが持たれている。同省は介入を否定しているが、資本市場の常識として政府による不正介入疑惑が生じた段階で、既に国益を大きく損ねている。

経産省の産業政策は、特定の産業分野に的を絞り、各種の補助金や優遇税制、外国企業の参入規制などで育成を図る、いわゆるターゲティング・ポリシーと呼ばれる手法である。日本の高度成長は一連の政策で実現したとの主張があるが、戦後の産業発展の歴史を冷静に分析すると、必ずしもそうとは言い切れない。

確かに一部の業界では経産省の支援が功を奏したケースもあったが、一方で同省は国内自動車メーカーの多くを不要と見なし、60年代に特定産業振興臨時措置法を通じて再編を試みるなど致命的な判断ミスをしている(同省の要請を産業界が受け入れていたら、日本の自動車産業は消滅していただろう)。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

テスラ取締役会、マスクCEOの新たな報酬案を特別委

ワールド

米、「対テロ非協力国」にキューバ指定 前政権の決定

ワールド

USMCA見直し、前倒しなら貿易政策クリアに=メキ

ワールド

中国主催のイベントに台湾と外交関係持つ2カ国が参加
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 7
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 8
    「奇妙すぎる」「何のため?」ミステリーサークルに…
  • 9
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 10
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 8
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story