コラム

ファミマが開く「金融・新時代」の扉──銀行は生き残れるのか

2021年03月04日(木)11時42分

robbin0919ーISTOCK

<ファミリーマートの「ファミペイ翌月払い」と「ファミペイローン」で、金融業界の地殻変動がいよいよ本格化>

コンビニ大手のファミリーマートがスマホを活用した消費者金融サービスへの進出を表明した。スマホ決済アプリ「ファミペイ」を使って、利用者に対する貸し付けや決済代金の後払いサービスを提供するという。

同社の消費者金融進出は以前から予想されていたことだが、金融機関以外の有力事業者がフィンテック(金融とITの融合)事業へ進出したことは、金融業界の地殻変動がいよいよ本格化したことを示唆している。

ファミペイは残高の範囲内で支払いができる決済アプリだが、今年夏以降にスタートする「ファミペイ翌月払い」では、残高が不足していても最大10万円までの範囲で決済が可能となり、翌月以降にまとめて支払いができる。また借り入れを希望した利用者に資金を貸し付ける一般的な融資サービス「ファミペイローン」も併せて実施する。

消費者金融は原則として担保を取らないため、貸し倒れリスクが高い。このため消費者金融事業を行うことができるのは、長年のノウハウを持つ一部事業者に限られていた。

給与の支払いも電子マネーに

ところが近年、人工知能(AI)の技術が急速に発展してきたことから、利用者の購買履歴を分析することで、貸し倒れリスクについても自動的に判定できるようになってきた。これまで金融機関は与信管理に莫大なコストを投じており、これが競争力の源泉となってきたが、与信コストが一気に下がる可能性が高まっており、金融機関以外でもローンのビジネスに参入できる土壌が整いつつある。

ファミリーマートは既に伊藤忠商事の完全子会社だが、伊藤忠はフィンテックを活用した個人向け金融サービスを強化する戦略を進めており、その中核となるのがファミマであることは明白である。伊藤忠・ファミマ連合が本腰を入れて金融サービスに乗り出したことは、本格的なフィンテック時代の到来を知らせる号砲と考えてよいだろう。

規制緩和も一連の動きを後押ししている。政府は近く、現金もしくは銀行振り込みに限定されていた給与の支払いについて電子マネーの利用も認める方針とされる。給与が直接、電子マネーや決済アプリに振り込まれるようになれば、新しい金融サービスの市場はさらに拡大するだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story